山田洋次監督と言えば、「寅さん」こと「男はつらいよ」シリーズを撮った映画監督として、日本中に知らない人はいないのではないでしょうか(若い人は知らないか・・)。山田洋次監督が原案・脚本を担当した連続テレビドラマ「男はつらいよ」が1968年に放映されたところ、このドラマがヒットし、松竹により映画化することになりました。山田洋次さんが監督を務めることとなり、1969年に第1作「男はつらいよ」が公開されました。当初は観客動員も地味でしたが、尻上がりに観客動員数が増加し、押しも押されもせぬ松竹の看板映画となりました。「男はつらいよ」シリーズは、1969年から1995年まで全48作が公開され、1年に2作(1年に3作の年、1年に1作の年もあります)、つまり「盆と暮れは寅さん」ということで日本中の多くの寅さんファンが楽しみにしていました。

 

 

 

 1995年に第48作目の「寅次郎紅の花」で寅さんシリーズは終了し、山田洋次監督は、それ以降1~2年に1作のペースで作品を作っておられます。

 山田洋次監督は、寅さんのシリーズが終了してから、3本の時代劇を撮っておられます。「たそがれ清兵衛」(2002年→公開された年:以下同じ)、「隠し剣鬼の爪」(2004年)、「武士の一分」(2006年)の3本です。3本とも、「藤沢周平」さんの短編小説が原作です。3本ともに名作と呼ぶにふさわしい作品であると私は思っていますが、今回は、その中の「隠し剣鬼の爪」についてお話ししたいと思っています。

 この「隠し剣鬼の爪」という映画は、脚本が本当によく出来ていると思います(私ごときが言うことではありませんが)。例によって、山田洋次監督と「浅間義隆」さんの共同執筆です。題名から想像して、剣豪が対決する物語か「必殺仕置人」のような話かと思われるかもしれませんが、そのような物語ではなく、藤沢周平さんのいくつかの短編小説をうまく融合させ、そこに下級武士の生活の哀歓をていねいに重ね合わせてふくらませています。こんなによく出来た娯楽映画の脚本を、私はあまり見たことがありません。

 ベースとなっているのは、藤沢周平さんの短編小説である「隠し剣鬼の爪」(短篇集「隠し剣孤影抄」に収録)と「雪明り」(短篇集「時雨のあと」に収録)ですが、主人公の友達が江戸に行く場面は、長編小説「蝉しぐれ」(名作です)の一場面を思い起こさせますし、江戸で謀反を起こした友達を主人公が倒した剣は、短編「邪剣竜尾返し」(短篇集「隠し剣孤影抄」に収録)に出てくる剣です(「隠し剣鬼の爪」がどのような剣であるかは後ほどお話しします)。また、藤沢周平さんの小説によく出てくる「お家騒動もの」の味付けもあります。私が想像するに、脚本を執筆したお二人は藤沢周平さんの小説が好きでかなり読み込んでおられるのではないかと思います。そうでなければ、藤沢周平さんの数ある短編の中からいろいろなエピソードを拾い上げて、このように見事に融合させることはできないと思うからです。

 以下、この映画のあらすじと、私の感想をお話ししたいと思いますが、尻切れトンボになりそうなので、ここからは次回にしたいと思います。

 

 

※ 「X」に画像を投稿しました(2023.12.29)。

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(次回に続く→時期は未定)