「裂けた旅券(パスポート)」という漫画は、「羅生豪介(らもうごうすけ)」(以下「ゴースケ」と言います)という日本人の男を主人公とする、ヨーロッパの政治や経済の裏の世界を舞台にした「国際的社会派劇画」と言えます。

 また、この作品は、35才のゴースケと「マレッタ・クレージュ」(以下「マレッタ」と言います)という13才のフランス人の少女(年齢は二人が出会った時のもの→年齢差22才!)の愛の物語でもあります。

 この漫画は「御厨(みくりや)さと美」さんの作品で、1973年に「ビッグコミックオリジナル」(小学館)で読み切りが掲載された後、1978年から1982年まで同誌に連載されました。単行本としては、いくつかのものが出版されていますが、私は、「MF文庫」(発行:メディアファクトリー 全5巻)を持っていますので、この稿の中で引用する場合は、この単行本を使うこととします。

 私は、この稿で「裂けた旅券(パスポート)」のことをお話しすると決めたことを少し後悔しています。というのも、事前準備のために単行本全5巻を読み返してみたんですが、2日ぐらいで読み終わるだろうと思っていたら、1週間もかかってしまいました(休み休みですが)。改めて読んでみて、その内容の緻密さに驚いてしまいました。第4巻の巻末のご本人による解説によると、連載当時、名だたる漫画評論家からは「およそ漫画の範疇に入るものではない」などと批判ばかりだったそうです。どのようにお話すればこの漫画の魅力を伝えられるか不安なのですが、とにかくお話を始めます。

 ゴースケは、中学卒業と同時に、「こんな狭い日本にいては世間は分からん」と大きな希望を胸に抱いて海外に飛び出しました。ヨーロッパのいろいろな国を放浪して何かを見つけようとしますが、現実は甘くはありませんでした。食っていくために、いつしか危ない仕事や詐欺まがいのこともするようになり(商品の横流しがバレてリンチで死にかけたこともあります)、本人が望んでいたことではありませんが、裏社会の仕組みや情報にも長けて、浮き草(デラシネ)のような暮らしをするようになりました。

 一方、マレッタは、後にゴースケに「親たちなんか思い出したくもない」と言っています。マレッタは小さい時にある家に養子に出されましたが、いつの間にかその家からいなくなりました(たぶん虐待されていたんでしょう)。そして、この物語に最初に登場した時には、パリの「ブローニュの森」(多くの売春婦が客待ちしているところ)で娼婦をしていました(13才で!)。

 ゴースケとマレッタの出会いは最悪な形でした。ブローニュの森に警察の手入れがあり、マレッタは売春の現行犯で補導され、その時の客がゴースケだったのです。それを知った警察署長マルタンは「お前か、ラモー!やれやれ、何の因果だよ!」と言います。ゴースケと署長は旧知の間柄のようです(もちろん悪い意味で)。署長はゴースケに「お前が抱いた女はまだ13才なんだぞ!今度のことは大目に見てやるから俺の手助けをしろ!」と迫ります(ある事件の捜査に関わっています)。ゴースケはマレッタの身元引受人にさせられて、一緒に暮らすようになります。

 一緒に暮らしてはいますが、ゴースケはマレッタを抱こうとしません。ある夜、マレッタはゴースケに抱きつき「どうして私を抱こうとしないの?うんとサービスしてあげてもいいんだよ」と言います。するとゴースケは、マレッタの頬をひっぱたき「このガキ!知ったふうな口をききやがって!」と言いながら、マレッタを自分の膝の上にうつぶせに乗せ、何度もそのお尻を叩きます。マレッタは「やめろってば!ただじゃすまないからね!」と強がっていましたが、最後にはゴースケの胸にすがって大声で泣き始めました。私は、この時に、マレッタの胸にゴースケへの信頼と愛情が生まれたのだと思います。

 一言断っておきますが、元来ゴースケは女にだらしなく、酒場でいい女を見かけると、うまい言葉で誘い掛け一夜を共にするような男です。それが、マレッタに対しては全くそのような態度は見せません。汚れ切ったこの男にも、若い頃の潔癖な心が残っていたのでしょうか。

 

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(続く)

 

※ 「X」に画像を投稿しました(2023.12.20)。

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(次回に続く→時期は未定)