皆さんは小説や映画の「SF」というジャンルをお好きでしょうか。私は、こどもの頃からテレビドラマの「宇宙家族ロビンソン」や「宇宙大作戦(スタートレック)」などを見て育ったので、自然とSFが好きになりました。なかでも、タイムトラベルものが好きで、小説では、米国のSF作家であるロバート・A・ハインラインの「夏への扉」が大好きです(Vol.16【小説 ハインラインの「夏への扉」】を参照)。
タイムトラベルというとすぐに思い浮かぶものに「タイムパラドックス」があり、その中でも有名な「親殺しのパラドックス」というものがあります。どのようなものかというと、ある人がタイムマシンに乗って、まだ自分が生まれる前の時代に行き、自分の親を殺したらどうなるかということです。自分が生まれる前の親を殺したら、当然自分は生まれなかったことになります。しかし、そうするとタイムマシンに乗って親を殺しに行くこともなかったのだから、結果として親は死なないで自分は生まれる。そうするとやはり自分は親を殺しに行くことになり・・・という堂々巡りになるわけです。
日本のSF作家であった「広瀬正」さん(故人)が書いたタイムトラベルもののSF長編小説に「マイナス・ゼロ」(1970年 河出書房新社)という作品があります。私はこの作品が大好きで、何度も読み返しており、タイムトラベルものの傑作であると思っています。
この作品にはいろいろな魅力があり、今回は、この作品がいかに面白い作品かということについてお話ししたいと思っています。
この作品で非常に重要な要素となっているのは、先ほどお話ししました「タイムパラドックス」です。この小説におけるタイムパラドックスがどのようなものかについては後ほどお話ししますが、一言で言うと「自分が過去に行かなければ自分は存在しなかった」というパラドックスで、しかも、このパラドックスは、先ほどの親殺しのパラドックスのように堂々巡りではなく、幸せな形で完結しています。そういえば、SF映画の傑作「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は、主人公のマーティが、タイムマシンで自分の両親がまだ結婚する前の時代に行って、両親が結婚できるように奔走するというストーリーでしたが、この映画のタイムパラドックスも秀逸であると思っています(映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」については、Vol.114【映画 文句なしの傑作「バック・トゥ・ザ・フューチャー3部作」①】でお話ししました)。
まず、「マイナス・ゼロ」の作者である広瀬正さんについて、すこしお話ししたいと思います。
広瀬正さんは1924年(大正13年)生まれで、1972年に47才という若さで亡くなりました。日本大学工学部建築学科を卒業し、テナーサックス奏者として「広瀬正とスカイトーンズ」を1952年に結成し活躍していましたが、このバンドは資金難のため1960年に解散したそうです。1965年に同人誌「宇宙塵」に処女長編「マイナス・ゼロ」を連載し、この作品は第64回直木賞候補に推薦され、選考委員のうち司馬遼太郎さんは激賞しましたが他の全ての委員が反対し受賞に至りませんでした。その後、「ツィス」、「エロス」、「鏡の国のアリス」などの作品を矢継ぎ早に発表しました。
前置きが長くなりました。次回は、この作品「マイナス・ゼロ」の内容とその面白さについてお話ししようと思います。
(次回に続く→時期は未定)
※ ツイッターに画像を投稿しました(2023.10.16)。
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