私は、昭和30年代に子供時代を過ごしました。テレビっ子だったので、「ポパイ」、「バックスバニー(正しくはバグスバニーか)」などの海外アニメや「ルーシーショー」、「ちびっこギャング」などの海外ドラマも好きだったのですが、お笑い番組については、何と言っても「シャボン玉ホリデー」「(Vol.9【テレビ番組 シャボン玉ホリデー】を参照)でした。この番組で大活躍していたのが「クレージーキャッツ」の面々で、ハナ肇さんの「おとっつあん、おかゆができたわよ」や谷啓さんの「ガチョーン!」なども本当に面白かったのですが、最高に面白かったのは、やはり「植木等」さんで、植木等さんのお決まりのギャグは「お呼びでない・・こらまた失礼しましたッ!」でした。もちろん主要なシナリオライターであった「青島幸男」さん(後に直木賞を受賞し、東京都知事にもなられました)の力によるところが大きかったのでしょうが、とにかくクレージーキャッツは面白かった。

 

 

 植木等さんの実家はお寺で、また、ご本人はとてもまじめな方で、「C調で無責任な野郎」というイメージが嫌だったと聞いています。しかし、いったん画面に映ると、その爆発力たるやものすごいもので、おとなから子供までの人気者になったのも当然だと思います。

 植木等さんはもともとジャズギタリストで、美声で歌もうまいのですが、そのような才能とは全く関係ない、いい加減でふざけた歌を歌い、いくつもの大ヒット曲を生み出しました。「ゴマスリ行進曲」、「スーダラ節」、「ハイそれまでョ」、「黙って俺についてこい」、など、数え上げればきりがありません。これらの曲は、前述の「青島幸男」さんが作詞したチョーシのいい歌詞と萩原哲章さんが作曲した素っ頓狂な曲に乗って、植木等さんが何とも無責任な胴間声(どうまごえ)で歌うので、面白くないはずがありません。

 例えば、「ゴマスリ行進曲」を例に挙げれば、その歌詞は「ゴマをすりましょ 陽気にゴマをネ(あ、スレスレ) 口から出まかせ出放題 手間もかからず元手もいらず・・・」という歌詞ですから、もうどうしようもありません。

 

 

 また、植木等さんが主人公を演じる映画がいくつも作られました。「ニッポン無責任時代」、「日本一のゴマすり男」など、題名を聞いただけで普通のマジメな映画とは違うのが分かります。私は、植木等さんの映画はほんの数本しか見ていないのですが、確か、植木等さんが演じる「平均(たいらひとし)」というサラリーマンが、上役や取引先に「ダイジョーブ、私に任せなさい、ウッヒッヒ」などと調子のいいことを言いながら思い付きでやったことが全て上手く行き、どんどん出世していくというような物語が多かったように記憶しています。その頃は高度成長期に差し掛かった頃で、一般のサラリーマンは、サービス残業は当たり前、土曜、日曜返上で死にそうになりながら仕事をしていたわけですから、植木等さんの映画は、なんとも夢物語だったでしょうが、その突き抜けた荒唐無稽さが受けたのではないでしょうか。

 

 

 今の芸能界では「テキトー男」というイメージの「高田純次」さん(本当は真面目な方だと思います)が植木等さんに似たキャラクターでしょうが、植木等さんが演じたあの強烈なキャラクターは、誰もが「明日は今日より良くなるんだ」と思っていた、熱意に溢れたあの昭和の時代でしか生まれなかったものなのかもしれません。

 

※ 「X」に画像を投稿しました(2023.9.13)。

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