Vol.55【セキセイインコの「チコ」と「チビ」①】の続きです。
オスのチコはとても人懐っこい鳥で、カゴから出てきた時に手を近づけるとヒョイと手に乗ってきて、手を顔に近づけ口を開けると、口の中に顔を突っ込んで歯の掃除をしてくれました。全くの無防備で、口を閉められるなどとは全く思っていないようでした。
一方、メスのチビはなかなか懐きませんでした。自分から手に乗ってくることはなく、チコが、母や私と楽しそうに遊んでいても、少し離れたところで横目で見ているだけでした。なんとか懐かせようとして、ある日、チビがカゴの外に出ている時に、両手でくるんでやったところ、横目でこっちの顔を見て、小さな声で「ギー、ギー」と鳴き続け抗議をしていました。「これはダメだ」と思い放してやったら、慌ててカゴの中に戻り、止まり木に止まって「やれやれ」という顔をしていました。チコはその様子を少し離れたところで見ていたんですが、チビがカゴに戻ると、自分もすぐにカゴに戻り、チビの隣りに止まりました。その顔を見ると明らかに怒っています。そして、突然チビの羽のあたりをキュンと突っついたんです。チビは「そんなに怒られても困るよー」という顔をしてしょんぼりしています。でも、チコは、しばらくするといつものようにチビの頭を掻いてやったり、口移しでエサをあげたりしていました。こんな小さな鳥でも嫉妬するんだなと可笑しくなりました。
飼い始めて3か月ぐらい過ぎた頃でしょうか、チビのお腹が大きくなってきました、慌てて巣箱を買ってきて据え付けました。2羽は数日間巣箱に入ったり出たりしていましたが、ある日を境にチビが巣箱からあまり出てこなくなりました。チコも時々巣箱に入ってしばらく出てきません。そして、ある日、巣箱の中からなにか音が聞こえるなと思って耳を澄ますと、「キー、キー」と小さな声が聞こえます。赤ちゃんが孵化したのです。それからしばらくは、チビは出てこず、チコが頻繁に入ったり出たりする日が続きました。そんなある日、巣箱からチビが顔を出しているなと思ってその顔を見ると、目がクリクリしています。チビと同じ羽の色をしたヒナでした。一瞬心臓がドキンとしました。その可愛いことと言ったら・・。全部で5羽ぐらい生まれたと思います。しばらくすると、ヒナは全員巣箱の外に出てくるようになって、とても賑やかになりました。
本当は手放したくなかったのですが、そんなにたくさんの鳥は飼えないので、自分でエサを食べれるようになった頃に、例の鳥屋さんに持っていきました。
それから3回ぐらい、同じようにヒナが孵ったでしょうか。毎回とても可愛い子が生まれました。真夏に孵化した時には、あまりの暑さにチビが巣箱から出てきて戻ろうとしませんでした。すると、チコが自分から巣箱の中に籠ってヒナの面倒を見ていました。立派なパパでした。
私が大学を卒業する頃に、私の両親は大阪に帰ることになり、チコとチビをどうするか話し合った結果、両親が大阪に連れていくことになりました。
その後、夏や年末に大阪の両親のところに行って、2羽の元気な顔を見ていたんですが、5~6年経った頃でしょうか、チビの足の付け根当りが膨らんできていることに気が付きました。母が動物病院に連れて行ったところ、腫瘍が出来ていて治療は困難だと言われました。母の話では、だんだんチビはカゴから出てこなくなり、ある日床に落ちて死んでいたそうです。お寺で手厚く弔ってもらいました。
それから、チコは目に見えて元気がなくなったそうで、エサもあまり食べず、1か月ほどして、チビの後を追うように死にました。
こんな小さな鳥でも、愛情は変わらないんだなと思い、仲が良かった2羽の姿が今でも目に浮かびます。