その9(№5893.)から続く

今回は「ホームドア整備のための車両側の対策」第2弾として、特急車両への対応を見ていきます。

特急車両を「一般用車両とは運用が区別され、一般用車両よりも座席数が多く快適性に意が用いられている車両」と定義すれば、国鉄~JRや大手私鉄の有料特急用車両だけではなく、京急2100形や阪急6300形、西鉄8000形などもこの範疇に入ることになります。
これらの車両は、例外なく一般用車両に比べて客用扉の数が少なく、しかも一部を除いて車端部に寄っているため(これはデッキを設けるなどして客室内の静粛性を高めるのが狙いとされる。例外は合造車などの場合)、一般用車両とは一致しないことが多くなっています。仮に一般用車両と扉の位置を揃えるとしても、ホームドアには開ける必要のある箇所とそうでない箇所が混在することになり、その対応も問題となります。

【小田急60000形など】
小田急は平成20(2008)年に地下鉄直通用ロマンスカー「MSE」を就役させますが、この車は他のロマンスカーと同じ片側1~2扉でありながら、ホームドアの位置に揃えることができるように、扉位置を考慮しているとのことでした。ホームドアへの対応を考慮した特急用車両は、恐らく小田急60000形が初めてではなかろうかと思います。
同車が乗入れる東京メトロ千代田線では、客扱いする扉を限定して運用しているようですが、ホームドアに対する対応は恐らく、ホームドアの自動運転を解除して手動で対応しているのではないかと思われます。手間はかかりますが、運転本数が少ないのでこれでいいのでしょう。
MSEといえば、かつて小田急線から千代田線~有楽町線間の連絡線を経由して豊洲・新木場まで走っていた「ベイリゾート」が廃止された理由について、鉄道趣味界では「有楽町線のホームドアにMSEが対応できなかったからだ」といわれることが多いようですが、管理人はそうではないと思います。現にホームドアが整備された千代田線でも、MSEは問題なく運用されていますから。そうではなく、運転取扱い上の手間がかかり過ぎたこと、具体的には霞ヶ関で方向転換が不可避となること、折返し整備の時間的な余裕が少ないこと、それらの要因が「ベイリゾート」廃止の本当の理由ではないかと思います。

【小田急50000形の退役の理由】
小田急のロマンスカーといえば、8~11車体の連接構造を持つ車両であることが特徴でしたが、最近は通常のボギー構造にシフトしつつあり、最新の70000形「GSE」も連接構造ではないボギー構造となっています。この理由は、やはり将来的なホームドア整備の兼ね合いとみるべきでしょう。
従来の連接車では、ボギー車と同じ扉位置でのホームドア対応は非常に困難であり、他社でもJR東日本のE331系があまりにも早期に退役していますが、これもそのような事情があったことが一因とされています。
小田急では、最後の連接構造を持つロマンスカーが50000形「VSE」でしたが、この車は今年3月のダイヤ改正で定期運用を離脱し、現在は団体・臨時運用をこなすのみとなっています。
VSEが第一線を退いた理由について、ホームドアの問題が取り沙汰されることがあります。この点について、小田急大本営は明確に否定していますが、「大本営発表」は「表向きの理由」であることもあり得ますので、真偽のほどは分かりません。

【東武500系】
「リバティ(Revaty)」こと東武500系は、汎用特急車として東武日光や会津田島だけではなく、「りょうもう」として赤城方面、果ては「アーバンパークライナー」として野田線へも乗り入れていますが、問題は「アーバンパークライナー」の発着駅の柏駅にホームドアが設置されたこと。
柏駅では、「アーバンパークライナー」の運用時は、2号車の扉だけを開けて対応しておりました。実際に管理人は、柏駅で実地検分したことがありますが、1号車の扉もその気になれば開けられなくはないものの、閉じたままでした。1号車の扉は開口部から微妙にずれているので、やはり開けたくないのではないかと思われました。こちらも、MSE運用時の東京メトロ千代田線と同じように、手動で対応しているものと思われます。
今後特急列車の停車駅、特に曳舟・春日部両駅にはホームドアが設置されるであろうことを考えると、2号車・5号車の位置(あるいは1号車・4号車の位置にも)に開口幅の大きいホームドアを設ける必要があるでしょう。と同時に、柏駅よりも発着する特急列車の数が桁違いに多いので、車種を判別しホームドアを開ける、又は開けないとするシステムを構築する必要があると思われます。
そういえば、東武は100系「スペーシア」の代替車としてN100系「スペーシアX」の登場をアナウンスしていますが、あれホームドアに対応しているんでしょうか? 

【京急2100形】
京急2100形の場合、2扉ではあるものの、3扉である一般車と両端の扉位置がほとんど同じであるという特徴があります。つまり、京急線内の快特停車駅にホームドアを設けるにあたっては、各車の(3扉の一般車の)真ん中の扉の位置を開けないようにすればよいということになります。こう言うとMSEや「リバティ」などよりも難易度が低いように見えますが、2100形の快特は有料特急ではない上に、日中20分間隔というかなりの頻度で走っていますから、いちいち手動で対応するのは、運転士や駅係員の負担が大きくなりすぎてしまいます。
そこで京急が採った方式は、車両の客用扉に「QRコード」を貼り、地上側でそれを読み取ることで車種を判別し、開扉・閉扉を決定するシステムを構築したこと。このシステム、もともとは京急の乗り入れ相手である東京都交通局が、同局の浅草線で採用したものですが、これによって手動による切り替えの必要をなくし、運転士及び駅係員の負担を軽減しています。

【その他・雑記】
近鉄が大阪阿部野橋駅に「昇降式ホームドア」を採用したり、他路線の駅には「沈降式ホームドア」を採用すべく研究したりしているというお話は、以前の記事で取り上げましたが、あれは車種によって扉位置が異なることもさることながら、特急列車の本数・車種が多いことも関係しているのではないかと思います。
しかし「沈降式ホームドア」、足下に衝立を沈ませる筐体を構築する必要があるところ(通常のハーフハイトタイプのホームゲートの筐体が地上に露出しているのに対し、この方式は筐体を埋め込むことになる)、その重量はかなりのものになると思われ、特に高架駅で採用できるのか、技術面・コスト面でも困難があるように思います。

以上、車両側の対応を取り上げてきました。
次回は番外編として、ホームドア以外のホーム上の安全確保のシステムを取り上げます。

その11(№5900.)へ続く
 

【おことわり】

当記事と次記事は、08/05付の投稿とします。