その8(№5888.)から続く

今回と次回は、ホームドア設置に伴う車両側の対応についてピックアップしていきます。
車両側の「対応」というといかにも大袈裟ですが、何のことはない、ホームドア設置にあたって当該路線で運用する車両の規格・仕様を統一し、その規格・仕様に合わない車両を退役あるいは転出させるということです。
勿論、前回と前々回にわたってみてきたとおり、車種ごとの扉位置の違いをクリアするための技術的な研究は続けられていますが、今のところ「昇降式ホームドア」以外にはクリアできたとはいえない状況です。
その「昇降式ホームドア」、安全性では通常型のホームドア(ホームゲート)には劣る。
そこで。

車種ごとに扉位置が違うなら、違う仕様の車両をお払い箱にすればいいじゃない。

…という発想で、仕様、特に扉位置・数の異なる車両を退役させる、あるいは他路線ないし他事業者に転出させるという手段で、車両の規格・仕様を統一しようという動きも出てきます。
以下には、そのような動きを示した事業者・路線を取り上げます。

【札幌市営地下鉄南北線】
この路線は、開業当初からの1000・2000形とその後継者(車)の3000形が混用されていて、そこに4扉の5000形が登場するというラインナップでした。
その後、ホームドア設置の計画が持ち上がると、扉数の多い4扉の5000形に合わせたピッチでの設置をすることになり、そのピッチに合わない3000形以前の系列は全て退役させられています。
置き換えは平成24(2012)年までに完了し、その後南北線各駅にはホームドアが設置され、現在に至っています。
なお、南北線以外の路線、東西線・東豊線はいずれも、開業当初から車両の規格・仕様が統一されていたので、ホームドアの設置にはこのような「下準備」は要りませんでした。
現在の札幌市営地下鉄では、全駅でホームドアが整備されています。

【横浜市営地下鉄ブルーライン】
ここも、ホームドア設置計画を前提に古い車を退役させた路線。
平成18(2006)年までに、開業当初からの1000形とその後投入された2000形を全て退役させ、全て3000形に揃えました。
これによって全ての編成の扉位置が揃ったため、横浜市営地下鉄ではブルーライン各駅のホームドア設置に着手、完了しています。
なお、同じ横浜市営地下鉄のグリーンラインは、開業当初から各駅にホームドアが設置され、かつ車両の規格・仕様も同一であるため、ブルーラインのような置換え劇は発生しておりません。

【京阪電鉄】
京阪では京橋駅などのホームドア設置を計画していますが、その過程で問題になったのが、元祖多扉車・5000系の処遇。
京阪では、5000系の経年及び車両数を考慮した結果、退役させて各車の扉位置を揃えた方が得策であると判断、その結果により、5000系は一昨年に全て退役しました。

【阪急電鉄】
ホームドアのために、列車の停車駅パターンの変更を行ったのが阪急。
阪急では、元京都線特急用の6300系を改造し、嵐山線への入線が可能なように6連に編成を短縮、その上で内装を大幅にグレードアップした「京とれいん」を走らせ好評を博していましたが、その後十三駅のホームドア設置計画が持ち上がると、扉位置が車端部に寄せられている6300系への対応が問題となりました。
ここで阪急が採った策は、同系充当列車について、何とその列車のみ十三駅を通過させること。このころは7000系を種車とした2編成目の「京とれいん」がデビューしていましたが、こちらを運用する列車については十三停車、6300系使用列車について十三通過とすることになりました(後者を『快速特急A』として区別)。
つまり阪急は、6300系のためだけに一つの列車種別を作ってしまったわけですが、他の駅にもホームドアの整備計画が浮上してくると、流石に京都線で運用するのは無理が生じないだろうかと思います。加えて、いかにリニューアルによって車齢がリセットされているとはいえ、6300系自体の経年も無視できないレベルになってくることを考えると、案外早期の退役もあり得るのではないかと思います。

【東京メトロ日比谷線・東武伊勢崎線】
ホームドア整備のために、車両の規格をそっくり変えてしまったのがこの路線。
もともと日比谷線では、乗り入れ相手の東急東横線・東武伊勢崎線ともども、18m3扉の車両を使用してきましたが、ホームドア設置にあたり、困ったのが東武。というのも東武伊勢崎線の北千住以北の普通(各駅停車)には、日比谷線規格の18m3扉の車両と本線規格の20m4扉の車両が混在しており、これがホームドア設置にあたっての大きな障害となることが懸念されました。
そこで、東京メトロと東武では日比谷線の車両規格を20m4扉に変更することになり、平成28(2016)年から車両の置換えをスタート、4年後の令和2(2020)年3月までに変更が完了しています。
これによって置き換えられた東京メトロ03系は廃車となりましたが、多くの車両が熊本電鉄や長野電鉄などへ移籍し、現地の車両を置き換えています。東武20000系列は一部の20000系中間車が廃車になったくらいで、あとはVVVFインバーター制御の電動車を有効活用し、4連化して宇都宮線・日光線・鬼怒川線のローカル運用に投入しています(20400系)。

【東京メトロ日比谷線と東急東横線との相互直通運転】
東急東横線のホームドア整備の必要から、惜しまれつつ取り止めになったのがこれ。
直通運転廃止によって浮いた1000系は、短編成化されて池上線などに転用されました(1500番代)。
現在は前項で取り上げたとおり、日比谷線も20m4扉の規格に改められていますから、その気になれば東横線との相互直通運転は「復活」させることは不可能ではないのですが(当時の両社の大本営発表では『廃止』ではなく『休止』としていた)、復活しないのはやはり、現在の日比谷線が7連という編成長であることと(東横線の各停・急行運用は8連)、運転系統が複雑になり過ぎることを回避した結果でしょう。

以上、ホームドア整備のために車両を置き換えるなどして、規格・仕様を統一した事例を見て参りました。
次回は、どのようにして特急車に対応していくかを見ていきます。

-その10に続く-