東日本の新幹線について、長野新幹線まで見て参りましたので、今回は「列車名」のお話です。予告編と順番・内容を一部違えていますが、そのあたりは平にご容赦をm(__)m

東海道・山陽新幹線が「ひかり」「こだま」、のちに「のぞみ」が仲間入りしたくらいなのに比べると(九州新幹線直通列車を除く)、東日本の新幹線の列車名は複雑な変遷をたどっています。

東北・上越新幹線の開業当時は、東海道・山陽新幹線の速達タイプと各駅停車タイプの分類に合わせ、東北では「やまびこ」「あおば」、上越では「あさひ」「とき」と称してきました。その後、平成4(1992)年7月の山形新幹線開業時には、山形方面への直通列車を「つばさ」としていますが、これは新幹線区間で速達運転を行うためか、在来線区間の停車駅パターンにかかわらず「つばさ」1種類のみとなっています。愛称が1種類のみなのは、後続の秋田新幹線も同じで、こちらは「こまち」のみとなっています。もっとも秋田新幹線の場合、後述する事情により第2の愛称が誕生するかもしれませんが。

このように、列車名に関しては「速達・各駅停車」並列の原則が受け継がれてきましたが、それが平成7(1995)年12月のダイヤ改正のことです。
もともと、東北系統での各駅停車タイプは「あおば」という愛称でした。この愛称は山々の新緑をイメージしたものとも、仙台の伊達藩(伊達家)の居城「青葉城」にちなんだものとも言われ、後者のイメージが強かったようですが、新幹線通勤客の増加により、上野(のち東京)-那須塩原間の区間運転の「あおば」が増えてくると、「仙台に行かない『あおば』」ということで、実態にそぐわなくなってきました。そこでJR東日本は、那須塩原までの区間運転の列車に第3の愛称「なすの」を冠し、仙台以遠へ向かう列車と区別したわけです。那須塩原には電留線があり、「なすの」はそこの出入庫も兼ねて運転されるため、東北新幹線で使用される全ての系列の車両が充当されています。なお、「なすの」は、後に一部が郡山まで延長され、福島県南部の利便性向上に寄与しています。
こうして東北新幹線の列車愛称は3本立てとなりましたが、秋田新幹線「こまち」が走り出した平成9(1997)年3月から、東北新幹線は「速達・各駅停車」の分類ではなく行先で分類するように改められ、仙台以遠へ達する列車は停車駅の如何を問わず「やまびこ」に統一されました。その結果、東京-仙台間各駅停車の列車(従来『あおば』となっていたもの)も「やまびこ」に編入されています。つまり「あおば」は廃止されたということで、新幹線の列車名としては「消えた列車名」の第一号という、悲運の称号を冠せられることになってしまいました。
その後、平成14(2002)年12月の八戸開業に伴い、東京-八戸間を通す列車は「はやて」とされ、しかも「はやて」は一部を除いて全車指定席とされました。同時に「こまち」の自由席も廃止され、「はやて」とともに全車指定席となっています。東海道・山陽新幹線では、平成4(1992)年に走り出した「のぞみ」が全車指定席でスタートしたにもかかわらず、東北新幹線八戸開業の10カ月後の平成15(2003)年10月から、自由席を設け全車指定席の取り扱いを止めています。このあたりは、ビジネス客が多い東海道・山陽系統と、そうではない東北系統の差なのでしょうか。あるいは、乗客の気質の違いもあるのかもしれません。
そして平成22(2010)年12月の新青森開業後、翌年3月からE5系による「はやぶさ」が走り始めます。こちらは最高速度を300km/hとし、「のぞみ」と同様に特急料金を割増ししていることから、「はやて」と別建ての愛称が付けられたものです。しかし、これまで行先別の愛称だった東北新幹線も、「はやて」に盛岡発着列車があったり、「はやぶさ」に仙台発着列車があったりと、必ずしも行先別とはいえなくなりました。「はやて」は全車指定席の速達タイプ、「はやぶさ」は最高時速300km/hでE5系使用列車、という分類なのでしょう。

上越系統でも、速達・各駅停車の別で「あさひ」「とき」となっていたのですが、平成9(1997)年の長野新幹線開業に伴い、東北新幹線と同様、東京-越後湯沢間の「とき」を分離し、谷川岳にちなんだ「たにがわ」の愛称を冠しました。「とき」は佐渡島にいた鳥の朱鷺のことですから、そもそも「新潟に行かない『とき』」というのは概念矛盾だったわけです。
さて、長野新幹線の列車名は、速達・各駅停車の別という形はとらず、全て「あさま」とされました。これは新幹線としては初のことですが、停車駅パターンが複雑であるにしても、短距離故に複数の愛称を使用することが躊躇されたのだと思います。
さあ、そうなると「あさま」は、上越系の「あさひ」と1文字しか違いません。そのためか、誤発券や誤乗が頻発し、旅客案内上大問題となってしまいました。
しかし、改善されたのはその5年後、東北新幹線八戸開業のとき。その間何があったかというと、「とき」が新幹線の列車名としては消滅してしまったことについて、復活を求める働きかけが、特に新潟県の沿線自治体を中心になされていました。地元に熱望されていた愛称と、誤発券や誤乗が頻発し旅客案内上問題になっていた愛称と。どちらを取るかとなれば、そりゃ前者を取って後者を切り捨てるのは道理。そのような次第で、「とき」は不運にも消えてから5年後、新潟発着の列車の愛称として復活することになります。
この措置によって、上越でも新潟発着の「とき」と高崎・越後湯沢発着の「たにがわ」の行先別の2本立てとなり、格段に分かりやすくなり、「あさま」との案内上の問題も解消しました。
「たにがわ」で面白いのは、冬季のスキーシーズンのとき、途中駅を通過する列車が走ること。途中駅の通過の有無にかかわらず越後湯沢発着の列車を「たにがわ」としたために登場した珍列車ですが、さすがに定期列車には存在しません。「たにがわ」に途中駅通過列車があると、案内が大変だからでしょうね。

今後注目されるのは、①E5系と併結するE6系使用列車に「こまち」とは別の愛称がつくのか、②北陸新幹線金沢到達時の金沢・富山方面行の列車名は何になるのか、です。
まず①の点ですが、「はやて」はともかく「はやぶさ」と併結するとなれば、最高速度に差が生じます。現在は300km/hですが、将来的には320km/hに向上されるとのことですから、そうなると新幹線区間で割増料金を徴収する必要も生じ、「こまち」のままでは混乱を来たします。平成9年の開業前に秋田新幹線の列車名を公募した際、「こまち」とともに「なまはげ」が上位を占めたため、「なまはげ」も有力視されています。あるいは現在ブルトレとして走っている列車から愛称を召し上げ「あけぼの」にするか。「あけぼの」は秋田県のイメージもあるので、あり得なくはないと思いますが…。
②については、越後湯沢発着の在来線特急の愛称を引き継いで「はくたか」でしょう。「雷鳥(らいちょう)」も期待したいですが、「雷鳥」は大阪と北陸を結ぶ列車というイメージが強く、東京駅や上野駅に出入りするのはイメージしがたいです。しかし、同じようにイメージしがたかった「はやぶさ」(東京発九州行きの寝台特急の愛称だった)が東北に鞍替えしていることから見れば、全くあり得ない話でもありません。
このあたりは、正式発表を待ちましょう。その間に公募もあるかもしれませんし。

駆け足ですが、現在に至る東日本の新幹線の列車名を見て参りました。今後、路線の延伸や新型車両の投入によって、現行の列車名のラインナップがどう変わるか。そのあたりも要注目ですね。



-その14(№2248.)に続く-