その14(№2155.)から続く


GWいかがお過ごしでしょうか。

4月末にブログ更新をさぼってしまいましたので、これからまた通常どおりやっていこうと思います。


これまで何度か触れてきたとおり、平成17(2005)年4月に起きた福知山線脱線事故は、JR西日本も大きな批判に晒されました。

この事故を契機に注目されたのが、「衝突時に乗客の安全を守ることができるようにするには、車体をどのように作ればよいか」ということでした。この事故では軽量ステンレス構造の車両が被害を拡大させたとして、一部メディアから批判されましたが、そのような批判は当たりません。なぜなら、重い国鉄時代の車両、例えば485系やキハ181系などだったら、衝突のエネルギーはもっと大きくなっていたはずだからです(運動エネルギーは重量に比例し速度の二乗に比例する)。もし国鉄時代の車両だったら、その際にはぶつかったマンションが倒壊していたとすらいわれています。

そこで、新快速用の車両にも、衝突時の安全対策が施されるわけですが、「衝突時の安全対策」が単に車体を頑丈に作ることだけを意味するわけではないことは、上記の485系などの例を挙げるまでもありません。こういう対策の難しさがうかがえます。


このような見地から衝突対策が施された車両が、現在のところ最新鋭の新快速用車両となっている225系です。

225系のスペックは以下のとおり。


1 先頭形状は223系よりも切妻に近づいた半流線型だが、運転席周りに比べ前面上部の強度を相対的に下げ、前面上部が先に潰れることで衝突時の運動エネルギーを逃がし(クラッシャブルゾーン)、乗客への衝撃と客室の変型を抑える構造になっている。

2 車種構成は全て電動車とする。大出力の電動機を搭載するが、全ての車輪が駆動するわけではない。

3 内装は223系(新快速用)と同じだが、バリアフリー化に鑑みトイレなどを改良。また屋根上に案内用LCDディスプレイを装備。

4 もちろん最高速度は130km/h。


最も注目されるのは、1のクラッシャブルゾーンの採用です。

この発想はJR東日本でもあって、最初はE217系、続いてE231系近郊型に導入されましたが、その後通勤用であるはずのE233系にも導入されています。こちらは高速運転対策というよりは、踏切事故の対策でした。平成4(1992)年9月、千葉県でトラックと衝突して運転席が潰れ、運転士が殉職した事故があったため、それをきっかけに普及したものです。この「運転士を守る」という発想は、209系で運転席の真後ろに脱出口を設けることで具体化されましたが、その発想を深度化したのがE217系以降ということになります。

ただ、一口にクラッシャブルゾーンといっても、そこは両者で発想が異なっています。JR東日本の場合は、運転席のスペースを大きく取って衝撃を分散させ、運転士や客室を守るという発想であるのに対し、225系は上に逃がして守るという発想であり、両者の差異が興味深いところです(ちなみに、JR西日本は225系の衝撃吸収構造を『ともえ投げ方式』と呼んでいる)。

その他では、車体の構造、具体的には窓の構造が変化し、扉間に大きな窓を1つ設け、その両脇に幅の狭い窓を設け、それぞれの間に窓柱が入る構造になっています。


次いで、2の「全電動車方式の採用」も注目されます。

「全電動車方式」といっても、昭和30年代の「高性能車」のそれとは全く発想が異なります。「高性能車」の時代は、出力が低めの主電動機を全台車・全軸に搭載し、ばね下重量の増加を抑えつつ編成全体の出力を確保・向上しようとしたものです。これに対して225系の方式は、VVVFインバーター制御の採用で可能になった、軽量かつ大出力の交流誘導電動機を搭載していますが、全軸に主電動機が装備されているわけではなく、主電動機のない台車や車軸も存在します。そのため、全電動車方式といいながらも、実質的なMT比率は1:1かそれ以下に設定されています。

223系がM車を集約して編成全体のMT比率を下げたのに比べると、なぜこんな面倒な事をしたのかと思いますが、223系の方式だとM車とT車の重量差が大きくなりすぎる(同系がそうだとは言わないが、その可能性はある)ことから、各車両の重量を均等化するという狙いもあったと思われます。

このような「新しい全電動車方式」は、同じJR西日本の321系通勤電車や287系特急型電車に、JR西日本以外でも、東京メトロの銀座線用の新車1000系に導入されています。


さらに内装についても(3)、バリアフリー対策の深化は時代の流れから当然として、特に注目されるのは当節の流行ともなっているLCDディスプレイの採用です。

車内案内表示装置自体は223系にもあり、こちらは車端部にありますが、225系は屋根の上にスペースを作り、搭載したことが他車と異なっています。これは、225系が転換クロスシートの車両のため、普通の車両のようにドアの上に搭載してしまうと見にくくなる(不自然に首を回さないと見ることができない)ための配慮とも思われますが、ほぼ同時期に登場した321系も同じ設置位置となっています。このような配置、海外でも韓国ソウル市のソウルメトロなどはこうなっているらしく、視認性は抜群なのですが、難点は屋根から吊るされた「中吊り広告」と干渉してしまうことなんですよね。「中吊り広告」は日本の通勤電車の風物詩的な光景ともいえますが、これがある限り、このようなディスプレイの搭載方法は、なかなか普及しないのではないかと思われます。


そして最後に、最高速度は当然のことながら130km/hとされ、223系と同格とされています(4)。


225系は平成22(2010)年9月、大阪駅などで展示会が行われ、このとき初めて一般利用者の目に触れています。新快速に使用する車両について、新車がデビューする際に展示会を行ったのは117系以来ではなかろうかと思われます。そうであるならば、展示会の開催は、JR西日本の225系に賭ける期待と、事故で負った様々なダメージを克服したいという思いが透けて見えるように思われ、その点も興味深いところです(ひょっとしたら221系や223系も展示会を開催したのかもしれませんが…)。

そして同年12月、新快速として颯爽とデビューし、223系に伍して130km/hの俊足を披露し始めました。


現在、225系は新快速運用区間の他、草津線や他社区間となるJR東海の大垣まで乗り入れています。その他にも日根野に阪和線用として配属されたものもあり、こちらは番代(5000番代)で区別されています。


113系→153系ブルーライナー→117系シティライナー→221系アメニティライナー→223系→225系。


新快速用車両は6代目、前身の80系・モハ43系半流線型・モハ52系・モハ43系一般型から数えると、「関西急電」としては、2桁の10代目にあたるということになりました。


では、次の「11代目」が出るとすれば、それはどのような車両になるのか。また、新快速のさらなる進化はあるのか。次回は最終回ですが、そういった点をみていこうと思います。


-その16に続く-