皮膚から万能細胞!! | 非常勤講師はつらいよ―私学非正規教員の本音と生活向上作戦

皮膚から万能細胞!!

 動物の卵が受精して少し発生が進んだ段階のもの(胚)どのような細胞にでも分化出来るES細胞(胚性幹細胞)が、
病気が怪我で失われた組織を再生して補うのに役立つのでは、と医学や生命科学の分野で注目を浴びていましたが、
一方で、生命の初期段階である受精卵を壊して作る事に対して、倫理的な面で問題があります。
しかし昨日のニュースで、皮膚からも似たような万能細胞(iPS細胞と呼ぶそうです)を作る事に成功したそうです!
大学では生物学を専攻して発生や分化に興味を持ち、大学院では医学系の研究室に所属した者としては、非常に興味深いです。

http://www.mainichi-msn.co.jp/science/photojournal/news/20060811k0000m040149000c.html


万能幹細胞:卵子や胚使わず作成…マウスで成功 京大


 卵子や受精卵(胚(はい))を使わず体細胞だけから、さまざまな組織の細胞に分化する能力を持つ万能幹細胞を作り出すことに、京都大再生医科学研究所の山中伸弥教授らがマウスで成功した。将来、ヒトの体細胞で実現すれば、拒絶反応のない臓器移植や再生医療、新薬開発など幅広い応用につながる。同じように万能性を持つ胚性幹細胞(ES細胞)は、作成に卵子や胚を使う倫理的な問題があり、代替手段として期待される。米科学誌「セル」電子版で11日発表した。

 胚の段階の細胞は将来、皮膚や臓器などに分化する万能性を持っている。いったん分化した細胞を胚の状態に若返らせ、分化能力を呼び戻すことを「初期化」という。

 山中教授と高橋和利・特任助手は、ES細胞と体細胞を融合すると体細胞で初期化が起こることから、ES細胞の中で初期化に必要な遺伝子が働いていると考えた。そこで、マウスのES細胞で特異な働きをする24の遺伝子を調べ、初期化に不可欠な四つを突き止めた。マウスの皮膚細胞にこれらを導入すると、ES細胞とよく似た細胞ができ、iPS細胞(誘導多能性幹細胞)と名付けた。

 この細胞をマウスの皮下に注入すると、神経、筋肉、軟骨などさまざまな種類の細胞や組織を含むこぶができた。容器内でも心筋、皮膚、肝臓の各細胞に分化し、万能性を持つことが確認された。また、iPS細胞を使ってもクローン動物作成にはつながらないとされた。

 一方、四つの遺伝子はヒトにもあり、山中教授らは、ヒトの体細胞でも同様の初期化ができるか調べている。山中教授は「人間でも比較的少ない遺伝子を使って万能細胞が作れるのではないか。ただ、初期化の詳しいメカニズムは不明で、今後の課題だ」と話している。【須田桃子】


 ▽幹細胞 臓器や組織を構成する細胞に分化する能力を持った細胞。胚の初期段階から作り出す胚性幹細胞(ES細胞)は、体のさまざまな細胞や臓器に成長する性質を持つため「万能幹細胞」とも呼ばれる。一方、骨髄や血液、肝臓、皮膚など特定の細胞にだけ分化する幹細胞は、体性幹細胞と呼ばれる。


 ◇再生医療に新たな突破口

 京都大がマウス実験で体細胞だけから万能幹細胞を作成したことは、倫理的課題を抱えていた再生医療研究に、新たな突破口を開く成果といえる。ただ、実際の治療に使うには細胞の安全性確認が不可欠で、実現には相当時間がかかりそうだ。

 新たな組織を再生する以外に治療法がない脊髄(せきずい)損傷や臓器不全などの難病では、受精卵やクローン胚(はい)から作成する胚性幹細胞(ES細胞)を使った再生医療が有望視されてきた。新薬などの開発にも役立つ。

 だが、受精卵を使うと生命の始まりである胚を壊すという倫理的問題が起きる。クローン胚の場合には、卵子の提供を受けねばならないほか、クローン人間誕生につながりかねない恐れがある。このため、日本での研究は厳格な手続きが必要で停滞気味だった。米国でも倫理的問題から政府はES細胞研究への予算支出を認めていない。しかし、成果が大きいと期待されるため民間資金での研究が進められている。

 皮膚細胞だけから万能細胞を作った今回の研究は、受精卵を壊したり、卵子集めをする倫理的な問題を回避できる。

 西川伸一・理化学研究所幹細胞研究グループ・ディレクターは「今回の成功は、(初の体細胞クローンの羊)ドリーが生まれて以来の驚きだ。体細胞の初期化は世界中の研究者の夢だった。再生医療の歴史を塗り替える可能性もある」と話す。

 一方、この研究が実際の難病患者の治療に結びつくには「少なくとも20年はかかるだろう」(中辻憲夫・京都大再生医科学研究所長)との指摘もある。作られた細胞の安全性確保、安定した増殖法の確立など、乗り越えねばならないハードルが多数残っているからだ。

 生命倫理に詳しい位田隆一・京都大大学院法学研究科教授は「マウスの成果がヒトでも同じかどうか、冷静に見極める必要がある。患者の細胞を使う研究や臓器の置き換えなど、倫理的な問題は常に付きまとう。一つ一つ丁寧に判断していくことが必要だ」と話す。【永山悦子】


毎日新聞 2006年8月11日 1時00分 (最終更新時間 8月11日 2時21分)