途中まで読んで,ずっと積読してあったのを遂に完読.
全体的に心理学的な用語やその流派の話が随所にあり,そのあたりの理解がいまひとつ出来なかったため,かなりややこしかたという印象.
まず,暗黙的な認識についてその意味,仕組みについての解説があり,続いて,それがもたらす「内在化」から「創発」の仕組みについての考察,最後にその創発を最も多く発現させる科学者の社会について応用することで締めている.
とりあえず理解した範囲では,暗黙知(あるいは暗黙的認識)はそのものである「近位項」ではなく,その知るべきことを引き起こす現象である「遠位項」を通して「知る」ことであるというもの.
また,これは近位項を自身の一部として認識することでもあり,これが「内在化」である.
これはあたかも人が心臓の鼓動を認識しないがそれをどう使っているのか分かって行動するようなもので,いわゆる無意識的な理解とその活用ということらしい.
これにより,より外部のものを取り込んでいく様が「創発」であり,これにより取り込まれた下位のルールとは異なる上位のルールが顕現する.
これは個々の細胞の仕組みを理解してもその動物の臓器の仕組みが理解できないし,また,臓器を理解してもその動物の行動が理解できないといった知識体系の階層化を意味している.
その階層化をあがるときに新たな発見がある.
と書いていくとなんだか混乱する.
で,この本と同じように科学者の登場.
科学者は何かを発見する際に暗黙的にその事実を認識することで,その存在を確信している.これは周辺の遠位項(現象や個々のデータなど)から近位項を感知し,その近位項が発見されるもの(ルール,法則)になる.
しかし,現在の多くの科学界では分析的に物事を理解しようとする傾向があり,この点についてはPolanyiが懸念している.
これは創発における知識の階層化を理解できないからというもの.
というのは下位の知識体系は上位の知識体系の制限をするが,理解には役に立たないため.
例えば,機械がどう動くかは物理法則では分からない.また,機械の破損理由を物理では説明できない.しかし,どう動けるか,どうしてその様になったのかは理解できるが,機械がその様に動くのは人がその様な上位のルールを規定しているためであり,破損した理由も下位の物理的なものではなく,その使われ方に由来している.
これは自然界でも同じようなことがあり,無機物と有機物,非生命体と生命体といったものを理解する際に必要となる.
最後の科学者の社会については,全体としての暗黙知化,組織レベルの暗黙知に関するもの.
科学界が何を受け入れ,何を受け入れないのか,には暗黙的な認識として内在化されたものに基づいているというもの.
これは一般的には常識や道徳といったものと考えられるが,この考えは文学,芸術といったものにも当てはまる.
おそらく,よく天才が理解されないあるいは生前理解されなかたというのは,個人的な内在化のレベルと社会の内在化のレベルにギャップがあり,それは時間を経過することで社会の内在化レベルが追いつくことで起こると考えられるのではないかと思われる.
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