今日いち日は一体何だっただろうか
あたまの中が混乱して・・・
まっすぐは帰れない
靖国通り手前の路地の喫茶店
いつもタンゴが流れている
エル・チョクロ ジャズでは Kiss of Fire
クーラーの効いた すみのテーブル
熱さで目が醒めるかしら
両手でカップを口に持ってくると・・・
ハッとした 飲まずにカップを置き
広げた両手
やっぱり 本当だったんだ さとしくんの匂いが両手についている
ズンと からだの芯が熱くなってくる
そうだ やっぱり あのお店に行ってみよう
表通りはごきげんで歩いているサラリーマンや
リックを背負って古書店のワゴンをあさっている人
いつもと変わらない 古書店街
JRの駅に向かって 坂を上る 振りかえってみて・・・
画材屋の塔屋は 見えない
さっき といってもいつのさっき?
戦前からあった古い病院・・・・跡
今は広い駐車場 もうすぐ新しい病院が建つみたい
脇の路地を入って行く
古い喫茶店 なんとなく古びてはいるが あった
年配のこざっぱりとした女性ふたりがサイフォンでコーヒーを淹れている
駅前の喧騒と違い 時の止まった 異空間
さして愛想もよくなく・・・
すすめられるまま 壁側のbox席
今日はいったい何杯目のコーヒーなのかしら
ふとカウンターに目をやると シンプルな木枠の写真立て
見慣れたというより見覚えのあるお顔
マスターだ
『あの~ この方は?』
『えっ 主人ですよ』
『この方は 今?』
『そうねぇ 10年になるかしら・・・』
『えっ お亡くなりになっているんですか、だって・・・・あっ』
『あら 主人 ご存知? でも あなたはまだお若いでしょ?』
数時間前まで一緒だったなんていったって信じてもらえるはずもなく
『ごめんなさい なんかお会いしたような気がしたので失礼しました』
『あら~ 突然だったのよ 何かず~っと 気になっていたことがあったみたいで
役目を果たしたらしく 良かった良かったって ホント 安らかに・・・』
年配の女性は姉妹らしく もうほとんど常連さんだけで営業している様子
私みたいに若い女性は 文豪ゆかりのお店だと知って来たりするぐらい
一歩表通りに出れは 今時のチェーン店がひしめいている
何か身の置き所が無くて・・・・
会計を済ませて出ようとした時
姉妹の妹らしき女性が
『間違ったら ごめんなさい あなた ともこ さん?』
『えっ そう・・・ですが・・・』
『やっぱり 義兄さんの言った通りだったわ・・・』
『え???』
カウンターの奥に行ったかと思ったら
年季の入った封筒を差し出して
『必ず 訪ねてくるはずだから 訪ねてきたら渡してほしいと言われたの』
『本当に私でいいのでしょうか?』
『大丈夫 あなた 雅子さんにそっくりだから、間違えてないわ』
もう何も言えなかった
閉まるドアの向こうから またどうぞといっていたような・・・・
どうやって 家までたどり着いたのか
明日も仕事の母は自室でTVを見ている様子
『遅かったわね ごはんあるわよ』
『うん ただいま 今日はいいわ・・・・』
『あっそう じゃお休みなさい』
『お休み』
シャワーを浴びて 冷蔵庫から 小さめの缶ビールを出して
長い1日だった・・・
TVも音楽も 何も する気がおきない
ちょっぴり さとしくんの匂いがついたカラダを洗い流すのは惜しい気がした
疲れたカラダにアルコールが効いたのか
電気を消すのも忘れて・・・
シーンと静まり返った部屋
突然 ブブブーと 携帯のバイブ音
夜中の1時 切っておくのを忘れていたわ
『・・・・はい・・・』
『・・・ともこ?』
『・・・・さとし・・・くん?』
『会いたい』
『私も・・・・』 あとは涙があふれでて、ことばにならない
『泣いてるの? 泣くなよ』
『・・・・うん・・・・』
第1章 おわり
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勝手に つづく 長くなりすぎた・・・・
すぎたついでに 長くする 予定 まぁ 自己満なので
勝手に書きます
