ふぁんたじー⑤ | kei'

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日々のこと

慢性satoshic


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『それから・・・どうなったの?』


落ち着き払った店主は 今ではあまり見かけなくなってきたサイフォンで

ゆっくりコーヒーを淹れながら・・・


『お二人に思い出していただいた方が正確だと思いますが』


『無理だぁ~』『そうね・・・』


店主が語るのには


雅子は生糸を主に扱う貿易商のひとり娘であったが世界大恐慌のあと

生糸の輸出がいっきに落ち込み、更に貿易商の父を船の事故により失い

家業が全て彼女の肩にかかってきていた・・・

援助を申し出てきている,父が生前取り決めていた政略結婚相手が存在


国男 かつて雅子の家の書生 



隔週の水曜日がふたりの逢瀬の日

店主も心得たもので その日は ほかの客を入れなかった・・・


あの戒厳令の夜


店の戸を叩く音  店主が戸を開けると 初老の男性が雪まみれで立っている

『あの 本日はこの状況で・・・』

『いえ 雅子お嬢・・・・雅子さんと国男という男がいると思いますが・・・』

『そのような方は・・・・』

『いえ いるのは承知しております お取次ぎをお願いします』


その男はかつて父の会社の番頭をしていた男



その晩は 雅子は泣き叫び 半狂乱 国男はうなだれている

店主はふたりが心中でもするのではないか 耳をそばたてずにはいられなかった


『どうしたんですか?』

『バレたから?』


『ふたりは結ばれてはいけなかったんですよ・・・』


『???』『???』



雅子の父が生糸の生産地である都市で恋に落ち、生まれた子が国男
父親が婿養子だったため、認知しておらず相続権は派生していない

父親と番頭であった男しか知りえないことであった・・・

そして当の本人の国男も・・・



『いつの時代も 女性は強いです・・・』


その後 雅子は 結婚相手の援助を断り 家業の立て直しを図ったが

ご時世が国際連盟脱退後、軍事力強化と向かってき貿易を生業としていた家業は

傾いていった、使用人の行き先を決めて


行くとして可ならざるはなし 


しかし過労が重なり 風邪による肺炎であっけなく この世を去る


一方 国男は王道楽土の謳い文句に踊らされ満州国に渡り、事業を興し成功を

収め、雅子の事業の援助を申し出たがきっぱり断られ失意の元、現地召集により

南方戦線に行き   マラリア病死


ふたりとも 未婚



『おふたりとも 生き急ぎました・・・早く転生したかったんでしょう』



『テンセイ?ねぇ~』

『生れかわることよ』

『うん わかってる・・・』


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店主にすすめられるまま ニ階の部屋に


昔のままなのだろうか・・真夏のはずなのに あまり暑くはない

奥の広い水場で汗を流し・・・


『ねぇ これから どうする・・・』

『う~ん どうしよう・・・・』


『マズイよなー あした ロケだし・・・』

『ロ・・・ケ・・・って 何してんの?』

『えっ オイラのこと 知らない?』

『し・・しら・・・ない さとし くんしか』

『まぁいいよ 前世でよく知ってるし アハハ』

『そうみたいよね  ウフ』


部屋の隅に古い長火鉢が・・・

小引き出しを二人で開けたり閉めたり・・・

『あっ こういうのって 確か 隠し引き出しみたいのあるはずよ』

『探してみよう からくりでしょ』


『あった 奥にもうひとつ 箱みたいなのある~』

『なにか 入っているよ』


少し 黄ばんだ 封筒  墨でなにか書いてある・・・


【誓詞】    裏には 国男 雅子


『うそー』


また ガタガタと震えが止まらない・・・・