◆スタッフ
監督: ロバート・ロレンツ/製作: クリント・イーストウッド。ロバート・ロレンツ。ミシェル・ワイズラー/製作総指揮: ティム・ムーア/脚本: ランディ・ブラウン/撮影: トム・スターン/プロダクションデザイン: ジェームズ・J・ムラカミ/衣装デザイン: デボラ・ホッパー/編集: ゲイリー・D・ローチ。ジョエル・コックス/音楽: マルコ・ベルトラミ/
◆キャスト
クリント・イーストウッド: ガス/エイミー・アダムス: ミッキー/ジャスティン・ティンバーレイク: ジョニー/ジョン・グッドマン: ピート・クライン/ロバート・パトリック: ヴィンス/マシュー・リラード: フィリップ・サンダーソン/ジョー・マッシンギル: ボー・ジェントリー/
◆映画情報
人生の特等席(TROUBLE WITH THE CURVE)/上映時間 111分/劇場公開(ワーナー)/初公開2012年11月23日/
オフィシャル・サイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/troublewiththecurve/
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私の好きなタレント、多彩で個性的な俳優・小沢昭一さん(83歳)が、10日未明、前立腺がんでなくなりました。突然の訃報で私もびっくりしました、ご冥福をお祈りいたします。小沢さんは、「幕末太陽傳」(1957年)、「豚と軍艦」(1961年)、「しとやかな獣」(1962年)、「続・拝啓天皇陛下様」(1964年)、「痴人の愛」(1967年)など、多くの映画で個性的な演技者として活躍しました。また、劇団「しゃぼん玉座」を創設、歌手としてもハーモニカを吹きながら渋い歌声をステージで披露してくれました。何よりも近代日本の周縁からも消滅しつつある放浪芸の発掘は素晴らしい功績です。本来ならば彼の出演作品「幕末太陽傳」などを取り上げたいのですが…。今度の土曜日のTBSラジオの永六輔の追悼番組、たぶんそんな放送になるだろうーを聴かなければ、と思ってます。きっと彼の放浪芸の逸話や、ハーモニカと童謡、シミジミとした人情話を聞かせてくれるでしょう…。前回、原田芳雄さんが無くなったときに、彼の俳優人生の功績を讃えて故人として始めて優秀作品賞を授与して、娘さんが授賞式に出席しました。そろそろ日本アカデミーショーでも≪名優功労賞≫のような、この一年に死去した俳優への授与賞を創設すべきですねー。
12月上旬の特選映画をアップロードします。映画館で観賞した映画は、5本でした。「ハリー・ポッター」シリーズの主人公を演じたダニエル・ラドクリフがゴシックホラーの弁護士役を演じる「ウーマン・イン・ブラック」か、或は、『グラン・トリノ』で俳優引退宣言をしていたクリント・イーストウッドが、4年ぶりに再び主演を務めた「人生の特等席」か、どちらにしようかと迷った末に
「人生の特等席」を選びました。
1本目は、年末に相応しい、人生にとって「何が…?」大切なのかを問う、味のある人正論風の映画「人生の特等席」(。ロバート・ロレンツ監督)でした。いつもならば、朝食にコヒーを飲みながら新聞を読み、目にとまるアメリカ社会を映す「事件」がクリント・イーストウッドの映画のヒントになるそうです。でも、この映画は、アメリカそのもののスポーツ「野球」を主軸に、老境を迎えた彼自身の人生の総括をするかのような映画だと私は思いました。人生にとって「何か…」大切だったのか? その答えは、生甲斐のある≪仕事≫と、温かい≪家庭≫を持つことだーです。アメリカ社会ばかりでなくて、日本社会でも離婚率は高いです。中年になって全てが個人の責任とはいえない理由によって、全てが自助努力によって解決されることが難しい理由によって、人生の伴侶を失い、さらに、仕事と家と家族を失い、孤独なホームレスになって一生を終えるのも稀な悲劇ではなくなってます…!21世紀の市民社会の至高の価値といえる二つが、幸福な家族、妻と子供のいる温かいマイファミリーとマイホーム、生甲斐の感じる仕事と、労働の成果から得られるお金だというのだろうか…???
家庭を顧みず、メジャーリーグ・スカウトマンとして生きてきたガス(クリント・イーストウッド)は長年大リーグの名スカウトとして腕を振るってきたが、ここのところ年のせいで視力が衰えてきていた。彼の最後のスカウトの旅に手を貸したのは、父との間長年大きなわだかまりを感じ続けてきたひとり娘の弁護士・ミッキー(エイミー・アダムス)だった。妻を亡くし、男手ひとつで育てた娘と父の旅の最後に見つけた人生の特等席とは……? 娘は親から譲り受けた野球選手を見る「眼」でコカコーラ売りの貧しいメキシコ青年に投手の才能を発見し、スカウトする。更に、元野球選手で同業のスカウトマンに恋し、臆病な恋愛を始める。それが仕事と家庭でした。
2本目は、「007」シリーズ生誕50周年、シリーズ通算23作目という記念すべき「007 スカイフォール」(サム・メンデス監督)です。イギリス情報局秘密情報部「MI6」が何者かの攻撃標的になる。ダニエル・クレイグ主演のボンドの任務は、その相手を見つけ、脅威を取り除くことにある。007の敵は、長年ボンドに秘密命令を与えていた女性上司M(ジュディ・デンチ)への復讐に執着する元MI6エージェントのシルヴァ(ハビエル・バルデム)でした。
特に007は最初のイントロの3分間のテーマソングと映像で観客の注目をひきつけ、一瞬にしてジェームス・ボンドの魅力の虜にしてしまう。「空が粉々に砕け散ってー」と甘い歌声がくり返され、ドラゴンのCGが天空を暴れまわり、ボンドガールの姿態がスクリーンから迫ってくるー。
ボンド自身もミドルエイジになり、スパイとしても引退時期を迎え、イギリス情報局秘密情報部MI6自体も、スパイ組織としての存在意義を国会で問われていた。そんな中で、Mの命が狙われる。アストンマーチンDB5に乗り換えて、強敵シルヴァとの対決を、彼の故郷の荒涼とした渓谷の狩猟場と、ボンドの父親の古い館に誘い込む。この映画で女性上司Mが亡くなり、今回新しいボスが登場する。サム・メンデス監督の手で007は、再び新しい展開を始めたー。スバイ映画が舞台はこれまで、仮想敵国共産圏との情報戦争画主役でしたが、次に、中東石油産出国とのテロ情報の収集へと変わりました。私は、次のスバイ映画の「仮想敵}は何かな?…と想像をめぐらします。
3本目は、ハリー・ポッターを演じたしたダニエル・ラドクリフが弁護士役で主演する「ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館」( ジェームズ・ワトキンス 監督。脚本/ジェーン・ゴールドマン原作/スーザン・ヒル)です。イギリスの田舎町に残るイールマーシュの館で、自殺したアリス・ドラブロウ夫人の遺産整理のため赴いたが、黒衣の女にまつわる怪奇現象に遭遇するゴシックホラーの傑作でした。彼が汽車の中で見る新聞記事にコナンドイルが交霊によって霊魂の存在を確信した記事が掲載されていましたー。
残念ながら、スーザン・ヒルの原作邦訳(『黒衣の女』ハヤカワ文庫NV 河野一郎訳)を読もうと探したのですが、なかなか見つからず読めませんでした。私には、ホーソンかボーの小説を読んでいるかのような幽玄な雰囲気と味わいのある映画でした。恐らく、先日読んだ浅田次郎の『降霊界の夜』を映画にすると、こんなオドロオドロシイ映像になるだろうなーと思いました。
4本目は、砂漠の国・イエメンにダムを建設した大富豪シャイフ(アムール・ワケド)が下流に鮭を泳がせ、サケ釣りを楽しむ≪サケ放流計画≫の顧問に、水産学者のアルフレッド・ジョーンズ博士(ユアン・マクレガー)に依頼する「砂漠でサーモン・フィッシング」(ラッセ・ハルストレム監督。脚本/サイモン・ビューフォイ)でした。この映画も半信半疑で、面白いのかな?、エーどんな映画かな…と暇に任せて鑑賞しました。やや期待はずれでした。
森林地帯から緑が消滅して砂漠化する現象がある。今は砂だらけの砂漠も元は緑の森林地帯だったようですー。シャイフが鮭を泳がせてサケ釣りを楽しむ≪サケ放流計画≫を思いついたのも、豪族のシャイフは、イエメンの人々の生活が砂漠に水を引くことで豊かになると想い、ダムを建設し、鮭を放流する計画を持ったのだったがー。ところが、イエメンの族長たちは、神を冒涜するものだーと、シャイフを暗殺しようと企み、ダムを決壊させて鮭の放流をダメにするー。
映画の原作は英国の小説家・ポール・トーディの「イエメンで鮭釣りを」を、「スラムドッグ$ミリオネア」でアカデミー賞脚本賞を受賞した脚本家・サイモン・ビューフォイが脚色したようです。原作小説の翻訳も読んでいない私は、何とも映画で見た限りのストーリでしかものが言えないのですが、私には、西欧的視点から描いた西欧文化的ヒューマンドラマだな…と思いました。今日、中東問題は、サミュエル・ハチントンの『文明の衝突』(集英社、1998年刊行)を抜きにして語れなくなりました。この映画は、砂漠のイスラム文明と西欧文明に対して、川と鮭の自然と恋愛の文明と、民族の内部対立とテロと戦争の砂漠と石油の文明を並べて、西欧文明の優位を表現しているのだろうか…?
5本目は、大分市役所広報課職員・西川千晶(井上真央)は市長(風間杜夫)から大分市PRのために、女子綱引きチームを結成するようにと依頼され、人集めに給食センター廃止に反対する職員を綱引きメンバーにして、全国大会出場まで勝ち抜く「綱引いちゃった!」(水田伸生監督)でした。これは愉快な映画でしたー。
大阪市に限らず、地方自治の財政は逼迫しています。そこで、地域特産の果物や野菜などの物産をPRして、売り上げを伸ばしたり、広大な土地を工業団地として造成して工場や企業を誘致したり、財政難を補うために地域を活性化するために、その土地のキャラクターイメージを作り、税収入を増やし、地元地域のために雇用を促進し、若者の地元離れを防ごうと、あれやこれや躍起になっています。何処の自治体もさまざまに智恵を絞っています。この映画では、地味なスポーツだけれども、「綱引き」の全国大会に出場して、あわよくば優勝して「大分市」を全国的に有名にして、地域を活性化しようとする、涙ぐましい奮闘の映画です。ここに、学校給食センターの公共施設を廃止して、民間委託する市の政策に反対する給食センターのおばちゃん達が綱引き選手として登場する。お笑いムードの人情映画だけれども、私は大変面白く見ました。地方財政が危機に貧しているからと言ってまず手始めに福祉や社会保障や公共サービスを削ってしまう、どこぞの府知事や市長よりもよっぽどいいですねー。
映画の中で松坂慶子のユーモラスな演技が特にいいなーと思いました。悲劇のヒロイン・吉永小百合の演技に対して、松坂慶子の喜劇っぽいおばさん演技が「名女優」域に達していて、大変味わいがありました。かつての寅さんを演じた放浪癖のある家族のロクデナシ役・渥美清に似た、いつの間にか、彼女は元気で色気タップリで涙もろい人情タップリの暴走「おばちゃん」役、日本一のおばちゃん役に、ピッタリのキャラクターとなって居ますー。山田洋次監督はどうして松坂慶子主演の人情「元気おばさん」シリーズ映画を製作しないのかなーと思います。