「夜は短し歩けよ乙女」 森見登美彦 2007-026
相変わらずの森見テイストではありますが、これは一皮むけた感もありますね。
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出版元 |
角川書店 |
初版刊行年月 |
2006/11 |
著者/編者 |
森見登美彦 |
総評 |
22点/30点満点中 |
採点の詳細 |
ストーリ性:4点 読了感:4点 ぐいぐい:3点 キャラ立ち:4点 意外性:3点 装丁:4点 |
あらすじ |
鬼才モリミが放つ、キュートでポップな片想いストーリー!「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。二人を待ち受けるのは奇々怪々なる面々が起こす珍事件の数々、そして運命の大転回だった! <<Amazonより抜粋>> |
春夏秋冬の4編の連作中編を所収。
一見してうだつのあがらない大学生の「私」と、クラブの後輩であり黒髪の乙女である「私」が、同じ時間軸・同じ物語を正しい意味で語ります。
「太陽の塔」の読後感想
では、「日本語の好きな作家さん」だとか「BGMを聞くように読むことがオススメ」などと、比較的批判的に評しており、「四畳半神話大系」の読後感想
では、”「限りなく下世話な大学時代を高尚な文体で表現する」ことに磨きがかかり、加えて章立て・構成に実験的工夫が見られ、意外に面白かったです。(文中をそのまま引用)”と評した森見氏ですが、本作も漏らさず、「日本語の好きな作家さん」であり「限りなく下世話な大学時代を高尚な文体で表現している」という印象です。
しかし、本屋大賞ノミネートという相当の評価をもらっているのはそれなりにわけがあって、勝手に推察するに、結局のところ前作までにはなかったクラブの後輩であり黒髪の乙女である「私」視点の物語が、際立っているという点だと感じました。
この物語は、前述したとおり2人(以下、彼と彼女)の視点で描かれていますが、彼視点は、相変わらずの「森見風大学生」であり「妄想恋愛小説」の体を描き続き、一方で彼女視点は、天真爛漫な彼女自身に降りかかる厄介ごとを解決していくという「冒険活劇」の印象を持ちます。
この本来相容れない、「大いなる二面性」が、読み手に「お得感」を与えているのではと、(勝手に)思いました。
加えて、全体に共通しているジブリ的ファンタジーの要素と、京都という土地柄自体が醸し出す雰囲気。
個人的には京都には相当の思い入れもあって、この雰囲気には楽しませてもらいました。
そして、彼と彼女を取り巻く、奇奇怪怪な登場人物やアイテムの面白さ。
先斗町を進む3階建ての電車のようなものは、画になりますね
ちなみ先斗町ってこんな感じ
で、えらく情緒があってそれでいて細すぎるんですけどね。
相変わらずの高尚な文体(加えて今回は、歯がゆくなるほどの彼女サイドの「丁寧語」)には、正直好き嫌いはあるとは思いますが、その辺りを気にしない(もしくは、私のように好意を持って受け入れられる)方には、オススメしちゃいますね。
なんせ、ちゃんとストーリーもありますので、もうBGMを聞くように読むなんてことは言いません。
「やればできるんじゃん、森見氏~」って感じです。
願わくは彼らと作者に声援を。
ちなみに本作、四畳半神話大系の登場人物と微妙にオーバーラップしていたりしますので、続けざまに読んでいただけるそれなりに楽しめるかもしれません。(かく言う私は、自分の読後感想を読んで改めて知った次第なのですが)