№136 「イラハイ」 佐藤哲也 | 流石奇屋~書評の間

№136 「イラハイ」 佐藤哲也

え~最近、このフォーマットになって、採点(らしきもの)をご披露しちゃっていますが、早速「採点の詳細」に自分自身にケチをつけちゃいます。
この「採点の詳細」って”至極、まともな本にしか評価点がつかない”風になってまして、まさにこの「イラハイ」には、極めて逆風(アゲインスト)なわけです。
なもんで、無視しちゃってください。無視無視。

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佐藤 哲也
イラハイ
出版元
新潮社
初版刊行年月
1993/12
著者/編者
佐藤哲也
総評
13点/30点満点中
採点の詳細
ストーリ性:2点 
読了感:3点 
ぐいぐい:1点 
キャラ立ち:2点 
意外性:3点 
装丁:2点

あらすじ
婚礼の日にさらわれた花嫁を追って、波瀾をのりこえて駆ける青年の冒険の物語…。「贅沢な遊び、これこそがファンタジー」と絶賛された新古典。<<本帯より>>


さんざ、前述で毒づいちゃったのであれですが、この本は、物凄く読者を選びますし、物凄くTPOを選びます。
しかも両方の条件に合致しないと、ちゃんと評価できません。
ちなみに、私自身は「選ばれた読者」なわけで、全然OKでした。
ただ、この師走に読む本じゃなかった・・・

例えば、忘年会の帰りの電車の中で、この本を読むと、くらくらします。
例えば、残業が続いて、身も心も疲労困憊で、この本を読むと、これまたくらくらします。
その「くらくら」が、気持ちの良いものであれば、良いのですが、ま、大抵「辛い側」なわけです。

物語は、まったくもってあらすじにあるとおりで、「婚礼の日にさらわれた花嫁を追って、波瀾をのりこえて駆ける青年の冒険の物語」です。
なので、もうこれ以上、あらすじについては、語りません。

ですが、ここはアノ(*1)佐藤哲也氏のデビュー作。
「日本語遊び」盛りだくさんなのです。
圧倒的に語り続ける文体。
終わりのない哲学的・思想家的やりとり。
そして、悪戯好きなイルカとマタグリガエルなのです。

だってメインストリームの冒険がはじまるのが、半分過ぎた辺りからで、それ以降も、まったくもって主人公たるウーサンは、黙して語らず、なんならこの不条理な世界の唯一の傍観者だったりします。

主人公なのに、物語の片隅追いやられるという構図

これ自体が佐藤哲也氏に見る「高尚な物語」なわけです。

ということで、興味のある方は、暑過ぎず寒過ぎず、要するに春か秋、比較的長い間ぼ~っとできる時間帯を選んで、お読みください。決して後悔はいたしません。

(*1)コノ佐藤哲也氏。本書以外の書評
「熱帯」 佐藤哲也
「妻の帝国」 佐藤哲也

◆◆◆◆◆◆◆◆以下、ちょっとした情報。◆◆◆◆◆◆◆◆

アノ伊坂幸太郎氏が、コノ「イラハイ」を絶賛しているのですよね。
証拠はこちら
WEB本の雑誌>【本のはなし】作家の読書道-第31回:伊坂幸太郎 より


以下、抜粋

佐藤哲也さんの『イラハイ』。これはうちの奥さんもお気に入りですが、最高です。高校の教科書に載せればいいのに、と思うくらい(笑)。ファンタジーというと、僕は魔法や剣が出てくる話は得意ではないのですが、これは全然違う。応募した後のデビュー直前に読んだのですが、これを読んでたら“すでにこんなに面白い人がいるのに”って、怖くて書けなくなっていたかも。たとえば、「冒険が始まったので、ウーサンは走った」っていう、そういう表現だけで幸せな気持ちになります。すごく小説的でしょう? 映像では絶対に見せられない。小説を読む喜びってこういうことなのかなって気づきました。

・・・「高校の教科書」って、・・・確かに、あの頃読んでいたら、人生も変わっていたかもしれません。
ということで、本当の伊坂ファンは、これを読んじゃってください。
でも好きな本と書いている本は、圧倒的に違いますから気をつけてください。

そういえば、私と佐藤氏の出会いも「熱帯」の本帯の紹介文が、伊坂氏だったからでした。

そのときの紹介文は
「”佐藤哲也と同じ時代に生きることができて、そしてその作品を母国語で読めるということを、僕達はもっと誇っていいと思う。---伊坂幸太郎”」

うんうん。母国語じゃないと、この不思議感は味わえませんわな。そりゃ。