2017年10月9日。
 
 
朝7時半。
 
入院先のさやかから電話がありました。
 
 
薬の事で看護師さんが確認したい事があるから、8時までに来て欲しいとの事でした。
 
 
他にも持ってきて欲しいと頼まれた物があったので大急ぎで用意をして、
 
8時過ぎくらいに病室に着きました。
 
 
さやかはもう、自分では薬の管理が出来ない。
 
何をいつ何錠飲んでいて、残りのストックがあとどれくらいあるのかを把握出来ない状況だったから、
 
薬の事で、看護師から質問されても何も答える事が出来ない状態でした。
 
 
 
この日は特に予定が無かったので、朝からさやかと一緒に過ごしました。
 
 
久しぶりに穏やかな日。
 
この日は祝日で、娘が家で暇そうにしていたので、お昼ご飯の時だけお見舞いに連れて行きました。
 
病院が家から近いから気軽に娘を連れて行けるのは幸いでした。
 
 
一緒に昼食を食べながら、昨日の娘の運動会での勇姿を、さやかに伝えてあげました。
 
運動会の時の動画も沢山見せました。
 
 
さやかは終始ぼっーとしていましたが、穏やかな表情をして、
 
時折笑みを浮かべてくれました。
 
 
束の間の家族の時間は、貴重な時間でした。
 
 
14時過ぎくらいに義妹が来てくれました。
 
疲労と睡眠不足もあったので、少しバトンタッチして仮眠を取りに家に戻りました。

 
 
自室に籠もってしばらくぼっーとしていると、
 
張り詰めていた緊張が緩んだのか。
 
涙が止まらなくなりました。
 
 
スマホの中に保存されている写真を見て、さやかと過ごした日々を思い返しました。
 
 
新婚旅行のハワイ。
 
一番の楽しい思い出。
 
全てがキラキラしている。
 
 
私は釣りが趣味で、川や海や湖など色んな場所にさやかを連れて行きました。
 
元々はインドア派のさやかでしたが、釣りに少し興味を持ってくれたようで、
 
嫌な顔をせずに私によく付き合ってくれました。 
 
 
長女の妊娠。
 
子供が産まれたら、なかなか遠出出来なくなるからと、
 
膨らむお腹を抱えながら、毎週のように遊びに出かけました。
 
 
 
二人で沖縄旅行にも行きました。
 
もうお腹はかなり大きい。

 
娘が生まれて最高に幸せな瞬間を得る事が出来たけど、
 
育児は簡単なものではなくて、かなり悩んでいた。
 
でもさやかが一番頑張った時間で、
 
この時の頑張りがあるから、今の娘がいる。
 
 
息子も産まれた。
 
待望の男の子。
 
天真爛漫な性格で、本当に可愛い命。
 
 
平凡だけど幸せな時間だった。
 
 
そんな中、見つかった癌という悪魔。
 
私達の生活は一変してしまった。
 
 
ほとんどが悲しみや悔しさで埋め尽くされていた日々だったけど。
 
一緒に病気と闘った日々の中で、夫婦の絆は深まっていったと思う。
 
本気でぶつかりあって一緒に泣いたり、悲しんだり。
 
 
病気になる前はここまで深く思い合う時間は無かったし、
 
希望や愛なんて言葉も使う事は無かった。
 
 
だからこそ今、
 
本物の夫婦になれた気がする。
 
 
でももう終わりが近づいている。
 
 
もう会えない。
 
もう見れない。
 
もう話せない。
 
もう出来ない。 
 
 
でも。
 
さやかはまだ側にいる。
 
触れる事が出来る。
 
 
流暢に言葉は交わせなくても、
 
見つめあう事が出来る。
 
 
まだそんな時間が残っている事が、
 
有難いと思うほどになっていました。
 
 
 
私は結局、仮眠は出来ませんでした。
 
 
夕方、私はまたさやかに会いに行きました。
 
 
晩御飯を一緒に食べました。
 
その後はさやかはずっと寝てたけど、痛みも苦しみも無く、穏やかな時間を過ごせました。
 
 
明日はKM-CART治療のため、要町病院に入院する。
 
 
ずっと悩まされていた腹水が無くなれば、
 
少しは元気になってくれるかな。
 
 
ちなみにこの日、
 
息子が始めて自分の足で立ちました。
 
1歳2カ月。
 
体育の日でした。
 
 
縁起がいいね、と。
 
さやかに伝えてあげました。