2017年10月4日。
 
この投稿記事のタイトルでもある「要町病院」は、
 
東京都豊島区にある病院で、院内に難治性の腹水治療を専門にした腹水治療センターが存在します。
 
 
癌を治すための治療はもうやり切ってしまった。
 
あとはさやかのQOLを改善する方法を考えたい。
 
日を追うごとに苦しさを増してくる腹水と足のむくみの症状は、
 
見ていて辛くて、何とか解消する術は無いだろうかと、常日頃から考えていました。
 
 
腹水治療はどこかのタイミングで実施しようと考えてはいましたが、
 
国立がん研究センターの抗PD-1治験の結果を待っていたり、
 
A病院の肝動注化学療法を受けたりと、
 
タイミングが合わず、この間は腹水治療をする余裕も時間もありませんでした。
 
 
この時も心の余裕はありませんでしたが、前向きな治療が何も出来ない分だけ少し時間がありました。
 
 
今のさやかの状態からすると、この時期がラストチャンスでした。
 
 
要町病院で行なっている「KM-CART」について少し説明します。

 
腹水は、利尿剤を使用して自らの力で排泄する事で治る場合もありますが、
 
腹水の多くは根本原因を取り除かないと、治す事は難しいと言われています。
 
 
腹水が貯まる事で肉体的、精神的な苦痛と食欲不振が発生します。
 
腹水を抜く事は技術的に難しい事ではないため、腹水を単に抜いて楽にする治療をする場合もあるようですが、
 
腹水には栄養素が多く含まれているため、抜いて捨てるだけだと栄養状態が悪化します。
 
 
そのため、抜いた腹水から癌細胞などの不要な成分をろ過し、必要な栄養素だけを抽出して体内に戻すのがCART治療です。
 
 
ただ、CART治療の場合は、癌性腹水のようにろ過すべき細胞成分が多い場合は、一度にろ過処理が出来る量が少なく、
 
これが大きな欠点としてあまり普及していないようです。
 
 
この欠点を解消したのが「KM-CART」。
 
ろ過する仕組みを大幅に改良し、一度に最大27リットルもの腹水を短時間で処理する事が可能なのだそうです。
 

体への負担は軽そうで、かつQOLを大きく改善できる。
 
私達はこの治療に大いに興味を持ちました。
 
 
「KM-CART」治療を受けたい。
 
でも、まずは診察を行なってもらう必要がある。
 
私達はこの日、要町病院に足を運びました。
 
 
担当してくれる医師は、この治療法の発案者でもある医師。
 
KMはこの医師のイニシャルでもあります。
 
 
先生からは様々なお話を聞けました。
 
 
◾︎腹水が4~5リットル溜まってるので抜いた方が良い。
 
 まずはそもそも「KM-CART」の適用は可能か?に対しては「可能」との回答でした。
 
 4~5リットルと言われましたが、見た目はそれ以上に膨らんでいて、
 
 やはり肝臓自体が膨張しているのも、この苦しそうに見えるお腹の原因かもしれません。
 
 
◾︎出臍(ヘルニア)は、放置すると穴が空いて水が出る。最悪腐ってしまうため、ガーゼなどで抑えておく必要がある。
 
 さやかのお臍はこの時期、相当なでべそになっていました。
 
 「ヘルニア」と先生は呼んでいました。
 
 放置するとさらにQOLが悪化する恐れがある。
 
 かなり有用な情報を頂きました。
 
 
◾︎治療のための入院の日取りは10/10〜10/12。
 
 約一週間後でした。
 
 
◾︎足のむくみも改善される。しかし、どれくらい改善されるかはやってみないと分からない。
 
 これは仕方のない事だと思っていました。
 
 お腹からは直接水分を抜くので、腹水には効果があるでしょうが、浮腫に関しては「期待される」といったレベルでしかないようです。
 
 
◾︎免疫療法は、この状態ではやっても期待しない方が良い。
 
 抜いた腹水の免疫細胞を培養するなど、腹水を利用した免疫療法があると噂を聞いたので質問してみましたが。
 
 今のさやかの状態では厳しいようでした。
 
 
色々と話を聞いて、治療の予定も立った。
 
 
まずは一安心でしたが、
 
 
先生と様々な話をしていた時、
 
さやかはせん妄の症状が強く出てしまい、ほとんど眠っていました。
 
 
おそらく先生が言っていた事はほとんど覚えていなかったでしょう。

 
「治療の日程がすぐ決まって良かったね。」
 
「。。そうだね。」
 
さやかは帰りの車内では少し回復していました。
 
そして、静かに涙を流していました。
 
 
24時間現実逃避し続ける事は出来ません。
 
こうやって病院に来て、具体的な話を聞くとやはり襲ってくるのは現実感。
 
 
こんなところまで来てしまった。
 
それは人生の位置の話。
 
 
人の平均年齢。
 
80歳と書かれた位置くらいにゴールテープが張られている事が多い中で、
 
さやかは33歳という位置にゴールテープが張られてしまった。
 
 
癌になんてならなければ、
 
さやかのゴールテープの先はもっと先に張られていたはずです。

 
50歳のあたり。
 
子供達が成人してお祝いをしている。
 
60歳のあたり。
 
子供達の結婚式に参加。この上ない幸せ。
 
70歳のあたり。
 
孫に囲まれて穏やかに余生を暮らしている。
 
 
そんな未来は見えなくて、
 
でもなぜかもう、目の前にゴールテープが見えている。
 
そのずっと先には、多くの幸せが待っているはずなのに。
 
苦労が報われる日が来るはずなのに。
 
 
さやかの人生はもうすぐ終わりを迎えようとしていました。
 

KM-CARTを行うための入院は、
 
10月10日から10月12日。
 
この治療を終えた2日後に、さやかは亡くなります。

 
「要町病院」
 
 
私が実名を公開出来たという事は、
 
良い治療を施している病院と感じたからです。

 
あくまで復水治療に限定した話であり、
 
その人のその時の状況で変わるかもしれません。
 
時と場合によっては、勧められる治療であり、
 
勧められない治療になるかもしれません。
 
 
そして、さやかの場合。
 
「KM-CART」治療を受けた事によって期待された
 
QOLの改善は残念ながらありませんでした。