2017年9月13日。

私には後悔している事が2つあります。
 

妻の治療方針について、
 
ああすれば良かった。
 
こうすれば良かった。
 
とか、そういう意味の後悔ではなくて、
 
私が発言した言葉に対してです。
 
 
1つ目は以前ブログに書いた事があります。
 
2つ目はこの軽井沢で過ごした夜に、
 
娘が寝た後、
 
夫婦二人きりになった時に発した言葉です。
 
 
こちらの言葉の方がより強く後悔しています。
 
ただ、別にこの言葉によって、
 
妻を怒らせた訳でも、泣かせた訳でもありません。
 
 
でも自分に正直過ぎた。
 
嘘でもいいから。
 
あんな事は言うべきじゃなかった。
 
 
この日の夜。
 
軽井沢アウトレットを満喫し、夜はホテルでゆっくりと過ごしました。
 
自宅宛に軽井沢からの消印で手紙を書いたり、
 
娘と妻との間に流れる穏やかな空気を感じながら、私は静かに二人を眺めていました。
 
 
娘を寝かしつけた後、
 
妻はやはり疲れがドッと出たようです。
 
今までで一番黄疸の状態が進んでいて、
 
後から見た写真でも分かるくらい、顔の色が黄色くなっていました。
 
 
「さすがに疲れたよね。体調はどう?」
 
「うん疲れた。疲れるとやっぱり背中の痛みが出てきちゃうな。。」
 
「痛みが強くならないうちにオプソを飲もう。今日はまだ2包しか飲んでないし。飲んじゃおう。」
 
 
私は妻が痛みに苦しむ姿を見たくありませんでした。

なので、妻の背中に痛みが出た時は、すぐにオプソを使うよう勧めるようにしていました。
 
 
「最近オプソ飲んでもすぐ痛くなる事が増えてきたよね。。私、大丈夫かな。」
 
「そうだね。でも一回あたりの容量は増やせるみたいだよ。これ以上痛みがコントロール出来なくなってきたら、先生に相談して増やしてもらおうよ。」
 
「うん。。」
 
 
私が言っている事も事実でした。
 
まだオプソもMSコンチンも増やす余地がある。
 
まだまだコントロールは可能。
 
 
「治験の参加って大丈夫かな。やっぱり可能性は低いんだよね?」
 
「大丈夫かは分からないかな。。でも出来る事はやってるから。それにロンサーフも始めたし、先生に相談すれば次の手も出てくるかもしれないよ。」
 
 
私は私なりに妻を励まそうと必死でした。
 
 
強気で前に進んでどんどん提案する。
 
全力を尽くせば結果が付いてくるかもしれない。
 
それも必要な考え方だったとは思います。
 
 
でも。
 
この日、妻が求めていたのはそんな事ではありませんでした。
 
「なんで。。?」
 
「えっ?」
 
「なんで大丈夫だよって言ってくれないの?」
 
「。。」
 
「最近大丈夫だよ。って全然言ってくれない。だから何を言われても不安なの!」
 
 
妻は泣き出しました。
 
そして少し強い口調で私を責めてきました。

 
私は愕然としました。
 
妻がそんな事を思っていたこと。
 
そして、
 
「大丈夫だよ。」が言えていなかった自分に驚きました。
 
 
ひとつ前の記事で書いた、ラーメン屋さんでの妻の涙の謎。
 
それは、
 
「大丈夫だよ。」
 
を言ってもらいたい時に、私からその言葉が無かったからでした。
 
 
妻の言う通りだった。
 
最後の最後まで。
 
「大丈夫だよ。」
 
その言葉をもっと沢山言ってあげれば良かった。
 
 
でもこの時。
 
私はどうしても「大丈夫」という言葉が出てこない理由があったのです。
 
 
それは「大丈夫」という言葉に散々裏切られてきたから。
 
抗がん剤もだめ。
 
食事療法もだめ。
 
ハイパーサーミアもだめ。
 
高濃度ビタミンもだめ。
 
 
サプリも運動も人参ジュースも。
 
何をやってもどんどん悪くなる。
 
 
選んだ治療が裏目になって、腹水も出て、
 
副作用が強くなって倒れて。
 
何も出来なくなって。
 
あっと言う間に病状は悪化。
 
今は死を待つに等しい。
 
 
何が大丈夫なものか!
 
大丈夫だった事などひとつもない!
 
 
だからもう「大丈夫」という言葉を信じない。
 
 
自分でも気づかないうちに。
 
そんな自分になってしまっていました。
 
 
頭を整理して、この時初めて自覚。
 
「大丈夫」という言葉を
 
自分が使えなくなった理由が分かりました。
 
 
そしてその理由を、正直に妻に告げてしまいました。
 
 
「だから。大丈夫だよって言葉が嫌いになってしまった。もうこの言葉を信じられないんだ。」
 
「。。」
 
「だからもうこの言葉は使いたくないんだよ。」
 
 
何を馬鹿な事を言ってるんだと思います。
 
簡単な事じゃないか。
 
ほんの数文字。
 
言ってあげればいいじゃないか。
 
それで相手が安心するのだったら安いもの。
 
 
妻は私のこの言葉を聞いて。
 
泣きもせず、怒りもせず。
 
だだ、
 
「大丈夫?辛かったね。」と
 
逆に心配してくれました。
 
 
何という事か。
 
相手を励まさなければならないのはこっちなのに。
 
妻に心配させてしまった。
 
 
最低の自分。
 
 
人を安心させる方法はひとつじゃない。
 
私は不器用でした。
 
もっと簡単な方法があったのです。
 
 
それはこの時に妻が言った、
 
「大丈夫?辛かったね。」
 
これだけでいい。
 
そして、優しく背中をさすってあげるだけでいいのです。
 
 
もしこの日に戻れるなら。
 
妻が教えてくれたこの方法で、
 
君を安心させてあげたい。