妻が倒れた。
今まで抗がん剤治療はずっとやってきて、
体調を崩す事は何度もあったけど。
癌性疼痛が辛くて痛み止めを飲んだり、胆管炎になって高熱を出したりした事もあった。
それでも妻は私の言葉に応えてくれていた。
それでも妻は私の言葉に応えてくれていた。
でも今は何も応えない。
何も出来ない妻を初めて見た。
緊急入院して血液検査で原因が分かった。
抗がん剤の副作用である骨髄抑制。
白血球数が下がった影響で重度の感染症を起こしてしまった。
とにかく点滴を打って回復を待つしかない。
今、病室で妻は眠っている。
このまま妻と一緒に居ても自分には何も出来ない。
後ろ髪をひかれる思いで病室を出た。
「バイバイ。また明日ね。。」
妻は虚ろな目をして、
何も応えてくれなかった。
2017年7月26日。
翌朝。
朝一で病室に向かう。
頼む。良くなっていてくれ。
せめて会話をさせてくれ。
もっと君と戦いたいんだ。
まだ負けたくないんだよ。。
祈る思いで病室に入った。
妻はベッドを起こした状態で起き上がっていた。
笑顔はないけど。
ゆっくりと。
「おはよう。」
久しぶりに私の言葉に応えてくれた。
返事がある。
それだけの事なのにこんなに安心できるのか。
良かった。
ふいに涙が溢れて止まらなくなった。
悲しみの涙は何度も流してきたけど、
安堵して涙するのは初めてだった。
安堵して涙するのは初めてだった。
妻の前でこんなに泣いたのも初めてだし。
心から安心するという経験も初めてだった。
ゆっくりとだけど、普通に会話する事が出来た。
聞いてみると、
病院に来た事は何となく覚えているけど。
それ以外の事は全く覚えてないらしい。
先生が説明してくれた骨髄抑制の話も。
でも今朝先生が来て、
改めて説明をしておいてくれたようで、
妻は倒れた原因を既に知っていた。
白血球数はまだ回復していない。
白血球数が上がり体調が回復するまで、しばらく入院する事が決まった。
そして、骨髄抑制が急に現れた元凶でもある。
腹水。
明らかにお腹が膨らんできている事から、
明らかにお腹が膨らんできている事から、
腹部エコーとCT検査を臨時で行った。
結果。
CT検査による見立てでは、6月の検査時と比較して顕著な増悪は認められず。
腹膜への転移もCT上の画像では見当たらない。
でも腹水はやはり増えており、約1000mlほど溜まっていた。
この状態が回復しない限り、治療は何も出来ない。
次週予定していた17回目の抗がん剤治療のスキップが決まった。
そして、翌日予定していた高濃度ビタミンC点滴療法もキャンセル。
闘病生活9ヶ月目にして、初めて無治療期間に入る。
こちらの攻撃の手が止まってしまった。
ガードする術もない。
癌細胞が不適な笑みを浮かべて殴りかかってくる。
理性を持たない癌細胞は攻撃の手を決して緩める事はない。
今は耐えて反撃の時を待つ。
そうするしかなかった。