2017年6月29日。

この3日前。
 
私は一人で高濃度ビタミンC点滴療法をお願いするクリニックに向かいました。
 
目的は初回のカウンセリングを受けること。
 
1時間で10,000円。
 
こういった類の診察にしては、かなりお安い金額だったと思います。
 
 
主治医に書いてもらった紹介状を渡し、妻の状況を理解してもらって、
 
院長先生の熱い思いをお聞きし、ガッチリと握手をして帰りました。
 
 
そしてこの日。
 
妻を初めて院長先生に会わせました。
 
 
治療内容の説明は、私が最初に伺った時の内容の繰り返し。
 
あと、稀に身体に合わず、副作用が出る体質の人がいるようなので、その検査をしました。
 
 
ただ。それだけでは終わらず。
 
この日、院長先生と交わした会話が、私達のこれからの治療方針を惑わす元凶となりました。
 
 
「ひとつお伺いしたい事があります。」
 
「何でしょう?」
 
「このクリニックでは、高濃度ビタミンC療法の他に、樹状細胞ワクチン療法などの免疫療法も行なっているようですが、妻の場合、推奨されますか?」
 
「いやいや。奥様の場合、まだ急を要する状況じゃありません。あと1年は生きられるでしょう。まずは高濃度ビタミンC療法をして様子を見て
からでも遅くはないでしょう。」
 
 
あと1年は生きられる。
 
この言葉は魔法でした。
 
 
今まで誰からも余命を告げられた事がありませんでしたので。
 
死が間近なのか、まだまだ大丈夫なのか。
 
この時全然分かっていなかったので、救われた思いでした。
 
 
そしてさらに追い討ちをかけるように、
 
「高濃度ビタミンC療法で癌が小さくなったら、ラジオ波焼灼療法で癌を取る事が出来ます。そこまで来たら寛解ですよ!素晴らしいと思いませんか?」
 
ラジオ波焼灼療法は、癌を縮小させて、何とか漕ぎ着けたいと私も考えていた寛解を目指せる唯一の療法。
 
 
まさに我々が望んでいたストーリーを院長先生は語ってきました。
 
 
それほどの猶予がまだあるのなら。
 
最後の手段として考えていた免疫療法は、まだ封印していても大丈夫そう。
 
雄弁に語られたこの魔法の言葉をすっかり信じてしまいました。
 
 
。。。
 
いや、きっと信じたかったのだと思います。
 
 
 
でも。本当は。
 
余命1年以上みたいなそんな悠長な状況では全くありませんでした。
 
 
そして、7月5日から高濃度ビタミンC療法を開始する予約をして、その日は帰りました。
 
 
まだ1年は生きられる。
 
私達はこの魔法の言葉に騙されて。
 
そして。
 
サインバルタという魔法の薬の勢いを借りて、妻はすっかり上機嫌。
 
 
その翌日、妻はスポーツクラブに入会しました。
 
 
2回だったでしょうか。スポーツクラブに行けたのは。
 
すぐに体調が悪化し、通えなくなりました。
 

スポーツクラブの会員証に写っていた妻の顔写真。
 
妻が亡くなった後、解約した時に会員証は返しました。
 
 
でもその顔は今でも覚えています。
 
 
歯を食いしばって。
 
不安を押し殺して。
 
懸命に生きようとしてしぼり出した。
 
必死の笑顔でした。