サザンオールスターズのツアー2025もドーム公演が始まり、いよいよ残りわずかということになってきました。

 さいたまスーパーアリーナ公演の模様を実況中継した「脳内THANK YOU SO MUCHツアー」、それに続いて、2025年末にもしもサザンが横アリで年越しライブをやったら…と想像してオリジナルのセトリで構成した「架空年越しライブ2025」。界隈の方に限らず、多くの方に見ていただいて大変嬉しいです!ツアーに並走する形で書いてきたブログですが、今回からラストということでニューアルバム「THANK YOU SO MUCH」を語る「裏・THANK YOU SO MUCH」を始めていこうと思います。「裏」というのはアルバムの裏に隠されている伏線や背景などを自分なりに考察してみるという意味です。Xの投稿では書ききれない部分まで触れていきたいと思います。相変わらず恐ろしく長い文章ですが、興味のある方、ぜひ最後までごゆっくり🍵


1. 恋のブギウギナイト

 2024年リリースの第一弾。あのときはオリンピックの曲がリリースされるのでは?と勝手に期待していたのもあり、これがラジオで流れたときは正直なところポカン…という感じだったのを覚えている。この曲については当初界隈の中でも賛否、というのは言い過ぎかもしれないが「サザンらしさ」みたいなものに欠けるといった意見も見られた。が、私の中ではある意味サザンが新しい路線を見出した、という見方であった。サザンは昭和のスターではなく「現代(いま)が全盛期」のバンドであると思っている。時代に合わせて進化し続けてきた存在。だから、いわゆる「サザンらしさ」なんてものは元々ないのでは、とさえ思っている。それにロッキンの映像を観てからは「シュラバ・ラ・バンバ」の続編のような印象も受け、何一つサザンとしての違和感はないようにも思えてきた。さすがサザンである。最初「ん?」という感じを受けてもいつの間にか頭の中で流れていて癖になっている、なんてことはいくらでもあった。この曲はその典型と言えるだろう。歌詞もしっかり桑田節。「踊らにゃSong()」「ノリ良くエロく大好きなタイプ(体位)」など、おそらく狙っているのではないかという歌詞の数々。こういう言葉遊びはKAMAKURA収録の「Brown Cherry」、あるいはその以前から続く桑田さんの真骨頂である。さらに凄いのは「女神か?醜女か?魔女なのか?」など難しい言葉もノリの良いメロディに自然に溶け込ませてしまう、同時に「色々人生あるじゃない」「あの時代は天国だった」などの深みのある歌詞も流れに乗せてしまうあたりが天才であると思う。

 また、タイトルの「ブギウギ」はデビュー当時の「女呼んでブギ」や(また後で触れるが)「悲しみはブギの彼方に」、セカンドアルバム収録「Let It Boogie」など、サザンの初期を彷彿とさせる。色々と意見が交わされたこの曲であるが、ロッキン2024で大化けを魅せた


2. ジャンヌ・ダルクによろしく

 前曲の発表後、みなさんご存知「サザンオールスターズ、続く」の広告映像が公式から出たわけだがそこでイントロが使用されていたものの、まだそのときは明かされていなかったのが2024年第2作であるこの曲。実は夜遊びでの発表のとき、リアタイできていなかったのだが日を跨いでXを見たところ異様な盛り上がりを見せていたので、何事かと思いタイムフリーで聴いてみたところ、、、正直に申し上げる。1回聴いただけで好きになった。あのときの衝撃はまだ覚えているが、最近のサザンは前アルバム「葡萄」や以降のシングル、2023の3部作も含め、ロックンロールという路線はあまりなかったように感じる。その流れでここにきてここまでエネルギッシュな曲を書いてくるとは、と感服した。これがまた一口にロックンロールと言っても、ソロ企画で発表した「時代遅れのロックンロールバンド」とはまた違う味わいがある。メロディラインはもちろんだが、歌詞も魅力的である。特に好きなのは2番の


生まれ落ちたる身の上 

歌は平和を奏でる武器でしょう

闇から光ん中へ飛び出そう 

Ahh 祭典を皆んなが待ってる


こういう歌詞が改めて桑田さんは「詩人」であるということを教えてくれるような気がする。サザン・ソロいずれも2番の歌詞が奥深いというのは昔からXでも推してきた魅力であるが、この曲も同様である。結果的に、予想通りTBSのオリンピックテーマソングに起用されたわけだが、この曲に込められたメッセージ性はまさに現代を投影していると思う。桑田さんはあるインタビューで語っていたが、この曲のキーワードになったのは「フランス」「女性」「革命」などだという。オリンピックの開催地であるフランスや現代社会の女性活躍、などからジャンヌ・ダルクに行き着いたという。また、世界を見渡しても争いの絶えない現代、「歌は平和を奏でる武器」というのは強いメッセージとも受け取れる。オリンピックをテーマにした曲といっても、「君こそスターだ」「東京VICTORY」、ソロの「SMILE〜晴れ渡る空のように〜」とはまた異なる路線の曲を作れてしまうのは天才なのだろう。特にコロナ禍の真っ只中に開催された東京オリンピックのSMILEと、コロナ禍が明け力を取り戻しつつある世界に向けたこの曲は綺麗な対比をなしている。


3. 桜、ひらり

 THANK YOU SO MUCHツアーとアルバムリリースの発表に使われたこの曲であり、同時にツアーのテーマソング。2025年1月1日にリリースというのはただ年明けを飾るというだけでなく、大きな意味を背負っているようにも思えた。YouTubeに公開されたPVでは石川を車で走り、ツアーが始まる石川産業展示館に至るまでの情景が映されている。桑田さんやメンバーの、被災地に対する思いのようなものは2011年からずっと続いているのだと実感した。ただ、


誰か未来へ言葉うまく伝えて欲しい


という歌詞を見ると、サザンとしてのこれからのことも指しているように思えて少し悲しくなる。明るくも少し悲しさを伴うメロディは特にサザンのこれからを示唆するようでなんとも言えない感情だ。

 ファン目線として述べさせてもらうと、この曲はいわゆる大衆に向けたメロディと歌詞な気もして、この曲にしかない、いわゆるサザンならではのオンリーワンといった感じの要素はあまりないようにも思えた。ただ


でもね 遊びにおいで 待ってます

みんなでここから未来へ 翔ぼうよ‼︎


の部分には、やっぱり桑田さんだなぁと思った。あと桑田さんはデビュー当時は歌詞をあまり重要視しておらず、ちょうどKAMAKURAあたりから意識し始めたと語っている。この曲の中でも、


泣くことさえ拒むか?蝉時雨

恵み給う海が溢れた


という綺麗な単語で紡がれる情景描写。そして「柳暗花明」という四字熟語。ここに現れている。情景描写という点で言えば、ソロの「明日へのマーチ」と対をなすような存在だとも言える。また、最初に聴いたときは発音的に「You are coming」と「柳暗花明」を掛けているのかと思ったが、実際のところはどうなんだろうか。どこか懐かしさを感じ、また飽きない名曲である。


4. 暮れゆく街のふたり

 最後の最後まで謎に包まれていた曲。#サザンと夜遊び の放送のときに初めて流れた。また新たな路線かというのが第一印象だった。歌詞については、先ほど桑田さんは詩人だと述べたが、この曲ではもはや「小説家」になってしまった。「夏の懈怠が遭わせたふたり」なんてどういう生活を送っていたら書けるのか不思議で仕方ない。「懈怠(けだい)」だって…


 私は桑田さんの歌詞に小学生の頃から触れてきたが、本当にいろんな言葉を学ばせてもらっている。「MOON LIGHT LOVER」のサビで出てくる「泡沫(うたかた)」など、難しい言葉なのになぜか知らぬ間に頭に残っていたというのは他にもある。もちろん、たまに「匂艶(にじいろ)」や「混和離(まじわり)」など、オリジナルなのにリアルすぎる当て字もあるので注意が必要だが。サビではカモメが出てくるが、桑田さんは「シャンソンの夕べ〜R60」で「かもめ(浅川マキ)」を唄っている。先達へのオマージュかも、、などと勝手に思っている。2番冒頭の「心を寄せた愛の人」の部分のなんとも言えない字余りの良さというか、表現が難しいがこの魅力。先ほどの歌詞に戻るが、


夏の懈怠が“遭わせた”ふたり

生まれ変わって“遭えたら”いいね


この「あう」の漢字が「遭遇」の「遭」なのがまたいい。桑田さんの歌詞では逢う」の字が使われることが多い気がするが、今回「遭う」の漢字なのがこの物語の世界観を表しているようにも思える。桑田さんは今回のアルバムを読み物のようにしたい、と言っていたそうだが、この曲はまさに短い「小説」のようだ


5. 盆ギリ恋歌

 前曲の哀愁漂う雰囲気が終わると、あのイントロが聞こえてくる。2023年3部作の一つ「盆ギリ恋歌」である。45周年が始まりを飾る曲がこれだったのはある意味の衝撃だった。初めて聴いたときは正直何がなんだかよくわからない世界観で、ただ曲が終わっていくような感じがした。だが一方で脳内は言いようのない興奮が駆け巡るような不思議な感覚だった。そしてだんだんと耳にフィットし知らぬ間に癖になっていた。メロディ重視な曲に思えて、実はその中に


今は亡き人と素敵なLovely Night

もう一度死ぬまで踊り明かすのさ

般若波羅蜜 冥土にGoing Home


などこの世とあの世を繋ぐような深い歌詞も出てくる。それでいながら、


誰もがやってるよ〜

みんなに内緒だよ〜

イクのはエクスタシー

こんなんどうでしょ?ああ気持ちいい


などこれこそサザンといった攻めた歌詞も出てくる。メロディも相まってアドレナリン出まくりの曲だ。


宴はOh What A Night(おわらない


これは間違いなく掛けているだろう。そして、注目すべきは2番サビの「愛倫情事」である。これには私のアンテナが強く反応した。なんだろうなぁと思っていたら、実はこのフレーズはKAMAKURA収録「古戦場で濡れん坊は昭和のHero」で出てきた。そして、他にも「よどみ萎え、枯れて舞え」では「愛倫浮気症(アイリン・フーケ・ショウ)」という造語が出てくる。にしても、なんとまあマイナーなところから引っ張ってきたかと思う。こういう伏線回収みたいなのを見つけると血が騒ぐ。また、「故郷帰りゃんせ」の部分は「通りゃんせ」を彷彿とさせる。さらに、歌詞にこそ載っていないが、ラストの


江の島が見えてきた…俺の家も近い…


の部分はみなさんご存知のあのデビュー曲のフレーズなわけだが、念仏を唱えるかのように歌うのはこれまた斬新。PVには過去のアルバムジャケットサザンの歴史が詰まった一曲だと思う。


私の勝手な解釈だが、この曲の言いたいことはといえば「世の中色々あるけど…みんなS◯X祭りしようぜ‼︎」的なことなのかと。いったい何を言い出すのかと思われるかもしれないが、震災やコロナ禍、芸能人の自死など、人の死に関する悲しいニュースが取り巻く世の中だが、盆の時期だけはこの世あの世隔てることなく、苦しいことも忘れて愛する相手(ひと)とヤリまくろう的なことではないかと。もちろんそれで終わりではなく、「前向きに今の世の中を生きていこう」というメッセージも含んでいるだろう。その点、2011年の震災を受けた上で発表された、ソロの「ハダカDE音頭〜祭りだ‼︎Naked」の続編のような曲と言えるかもしれない


裏・THANK YOU SO MUCH、続くー