万葉です。早速、ニューアルバムを私なりの視点で分析する「裏・THANK YOU SO MUCH」を始めていきます。今回は【第2弾】ということで、アルバム5曲目「ごめんね母さん」から10曲目「歌えニッポンの空」までを綴っていこうと思います。ぜひゆっくりしていってくださいね🔥

 

5. ごめんね母さん

 初めて聴いたときの衝撃といえば、これに勝るものはないのではと思う。そもそも「ごめんね母さん」というタイトルからして滲み出る猛者感。これは前に述べた「盆ギリ恋歌」でも感じたことだが、45周年を迎えた一発目が変に気取ったりカッコつけることなく「盆ギリ恋歌」。今回も、難しいメッセージなどではなく「ごめんね母さん」という直球である。そして、その中身はというと、これまた桑田ワールド。実はSNSの投稿などを見ていると、この歌詞についてはさまざまな読みがある。今回は私なりの捉え方を綴ってみる。


 この歌詞=物語の主人公は我々と同じ若者。イメージは、サングラスをかけてフードを被り、少し前のめりに歩いているような感じ。彼はいわゆる「闇バイト」に手を出してしまった後、心の中で後悔している。ただそれは、どんよりとしたものではなくむしろこのスリルを楽しんでやろう、というような少し不思議な感情で歩いている。


 “母さん、こんな生き方をしてしまって申し訳ない。にしてもSNSが妙に気になる。どこかで自分が特定されてしまうのではないか、でもこういう裏の側面がなけりゃ世の中回らねぇよな、でもやっぱり母さんごめんよ。物心がつく前に出ていった父さん、あんたもきっとこんなことをして家を追い出されたんだろうよ、血は争えねえな”


 的なストーリーを思い浮かべながらいつも聴いている。歌詞はまるでセリフのようになっているが、おそらくこれは彼の心の中だろう。罪悪感があるが、それでいてスリルを楽しんでいるこの不思議な感情が、メロディに現れているような気もする。私にもある。日常生活でやらかしたなぁ…と思って少し落ち込んでいる帰り道、頭がジーンとしているがその一方で、気づいたら全くその状況にそぐわぬアップテンポなメロディが流れていたような経験。皆さんにもないだろうか。そんな不思議な感じがこの曲でも描かれているのではと思う。そして、なんと言ってもさすが桑田さん、と思うのは歌詞にしっかり「令和」を投影しているところだ


本性はドS

Yahoo!のニュース

ワンチャン ゲスな モーション


 桑田さんはニューアルバムのタイトルについてインタビューで語っている。


「ありがとうございますみたいなね、そういう思いを英語でどう言うのかってスマホ開いてきいてみたんですよ。そしたら『THANK YOU SO MUCH』って」


 我々Z世代は知らないこと調べたいことがあれば、ひとまずスマホを開いて検索する、これがルーティーンワークとして染み付いている。しかし桑田さんはそれこそスマホなんかなく、何か調べようものなら図書館に出向いて一から情報を探す、気になるニュースがあっても新聞を開く、そういう世代に生まれた人であるしデビュー当時もそうだったろう。しかし、桑田さんはいつだってその時代時代に合わせて滑らかに己を進化させている。だからどの世代の心にも刺さる名曲を生み出すのだと思ったし、この「ごめんね母さん」もその代表作の一つだ。


 最後にこの曲を締めくくるのが以下の歌詞である。


 ウスバカゲロウのような人生だったなんて、アナタは言うが、そんなウスバカゲロウに対して非常に失礼なモノの言い方をするもんじゃ…ないですよね?


 この部分もAIボイスという令和の技術を駆使しているらしくそれも画期的だとは思うのだが、その内容である。突然ウスバカゲロウが出てくるのには驚いた。林先生の初耳学でも少し触れられていたが、「明治を生きた文豪」のようなイメージがある。だからこそそのギャップがすごいと思う。先に述べたように、この歌詞の世界観は令和であるが、最後の最後に明治時代の文豪が書くような詩がポンと出てくる、しかもそれを令和のAIが語っている、頭の中がこんがらがりそうな状況だが、それもこの曲の魅力だと思う。ちなみにこの歌詞で思い出したのは、皆さんご存知あの曲の一節。


芥川龍之介がスライを聴いて

「お歌が上手」とほざいたという


これも時代設定がめちゃくちゃだがやはり印象に残る。桑田さんはソロでも「声に出して歌いたい日本文学」でも文豪へのリスペクトを表現していて、今回また再来したイメージだ。さらに、少し戻るが


巨悪の影が踊る

すべての物事にウラとオモテがあって


あたりは「闘う戦士たちへ愛を込めて」の世界観を思い起こさせる

サザンが「現代を謳うバンド」であることを改めて実感させられる一曲。


7. 風のタイムマシンにのって

 原坊ボーカル。ジャンヌダルク同様、これも初めて聴いたときに心を掴まれた曲だ。なんといっても、曲全体を通して爽快感がある。海を横目に車で走り抜ける情景が浮かんでくるようだ。原さんボーカルの曲は、アルバムを出したり、ツアーを組む際に1曲作られるイメージだが、この「風のタイムマシンにのって」はここ最近の作品の中でもかなり好きな方だ。爽快なメロディはもちろんであるが、歌詞の綺麗さも魅力的だ。


春は往来闊歩して

見えるは富嶽麗しや

打ち寄せる波濤は北斎

江ノ島も手招きしているから


などなど。サザン名義としては一つ前の原さん作品となる「北鎌倉の思い出」、あとはソロアルバム「婦人の肖像」収録の「旅情」、少し前の作品になるが「唐人物語」など、原さんの美しい声で歌われることでどこまでも透き通って見える情景が本当に魅力である。あと、原さんの曲ではないが桑田ソロの「古の風吹く杜」これも名曲である。落ち着いたメロディが、鎌倉に思いを馳せながらを歩いている情景と完璧にマッチしている。桑田さんの情景描写は神だ。


夢の開演 Now It’s Time

さらば哀愁 Lonesome Time

 

こういった歌詞は桑田ソロの「炎の聖歌隊 Choir」を思い起こす。

意外だったのは、原さんが最初にこの曲を聴いたときはあまり良い反応を見せなかったということ。半世紀近くも一緒にやってきていると、なんとなく察するんだろうとは思うが、そのときの桑田さんの反応も少し見てみたいとは思ってしまった。


サザンの総合プロデューサー、原由子の魅力が全て凝縮された1曲


8. 史上最恐のモンスター

 この曲のタイトルを知ったのは、年が明けてファンクラブ宛に届いた新年の挨拶。ニューアルバムの編成曲が一覧で載っていた。夜遊びではすでに何曲かオンエアされていたがその時点では未発表の曲も当然あった。その一つがこの曲である。タイトルを見た時に、色々と思いを巡らせたがおそらく何かしらメッセージ性のある曲なんだろうなぁとは感じていた。不気味な感じで始まるイントロ。そして


やれやれPeople ほらほらNature


という歌詞。最初は何のことかよくわからなかったが、


灼けそうなアイランド

凍りついたジャングル


ここら辺から徐々に見えてくる。


また嘆きのニュースがゴールデンタイム


ここでおおよそこの曲の方向性が見えてきた感じがした。ソロの「飛べないモスキート」でも、サビに向けて徐々に言いたいことが判明してくる、なんというかこうじわじわとした感じ。今回もそのパターンである。「嘆きのニュースがゴールデンタイム」という歌詞からは、ソロの「漫画ドリーム」「どん底のブルース」を思い起こす。


私個人としてこの曲に関する見解としては、まず「モンスター」というのは人類、あるいは人類が抱える闇の部分。Rains and Shinesであったり、龍神さん、雷神さんといった歌詞は、目まぐるしく変化する気象変動や環境問題を指し示しているのだろう。ゲンゴロウが棲む笙の川、というのは桑田さんも言っていた通り福井県にある実在する川のことらしいが、福井県は石川県と同じ北陸にある。震災が起きたのは能登であるが、色々と勘繰ってしまう部分はある。そして、後半には


あゝ ウクライナ(Ukraine)の春は待ちぼうけ


というダイレクトな歌詞が出てくる。私はここが特に好きである。というのも、直前に


仏になった法然さん

神になったホーキングさん


とあまり意味をなさない、と言っては失礼かもしれないが少し関係のないような桑田節を入れて、そこから突然遠くの地の戦争へと発想が飛ばされる。このギャップ感のようなものは「ごめんね母さん」にも通じる(こっちにはウスバカゲロウではなくゲンゴロウが出てくるが)。


これだけ山積みな問題を抱えている地球もRoller Coasterのように回り続け、自然は破壊され続けていくという、何とも言えない虚しさ、無力感を与えて終わっていく。改めて最後の歌詞を見てみると、


灼けそうなアイランド


これは「ヒートアイランド現象」を彷彿とさせるフレーズで、都会のオアシスの外は灼熱の島というどこかで聴いたことのある歌詞とも重なる。また、


凍りついたジャングル


これは色々な味方ができると思う。日本から遠くにある名もなき森林が厳しい冬の寒さで凍りついているような情景を想像することもできるし、あるいは、「Relay〜杜の詩」で


麗しいオアシスが

アスファルト・ジャングル

に変わっちゃうの?


という歌詞が出てくるが、都会の開発の結果、錆びついた無機質な感じが凍りついていると表現されているとみることもできる。これも何度もXで述べてきたことと重なるが、サザンといえば「夏・海・恋」のようなイメージが浸透しているようだが実はこのように社会の問題に鋭く斬り込む風刺や皮肉こそ真骨頂である。それを代表した一曲


 相変わらずのことですが、文章量がかなり増幅してしまったので当初は「歌えニッポンの空」まで書く予定でしたが、ここで切り上げようかと思います。


裏THANK YOU SO MUCH

、続くー