【架空ライブ2025】第4部(M21~23)


「夕陽に別れを告げて〜メリーゴーランド〜」が終わり、暖かい照明が消え一度暗転した。


桑「ありがとうございます。ええ…すっかりもう普段やらない曲ばかりで、本当に申し訳ないんですけど、今聞いていただいたのが高校の、まだ若くて色々と元気だった頃を歌った曲でした、と。あのそれで先ほどとも被るんですけど、我々本当に長くこの鎌倉とかね、湘南とかそういう場所に始まり、色々とお世話になってここまできたんですけど、初期の頃なんかはね色々と思い悩んだりそういった時期もございまして、若い頃なんかはね。でもメンバーとかスタッフはもちろんですけど、こうして支えてきてもらったみなさん(ファン)にね、改めて感謝したいなとそう思っております。」


会場から大きな拍手が。


桑「…それで、まああのほんとにデビューしてまだ…ほんとに最初の頃かな。ようやくテレビの方にも少しずつお邪魔させてもらった頃に作った、ほんとに古い曲なんですけれども、これまでやってこれた感謝も込めて、この曲を聞いていただきたいと思います。よろしくお願いします。」


21.   働けロック・バンド(Workin’ for T.V.)

 スクリーンに曲名が出ると会場からは静かな拍手が。この瞬間もいいね!と思う。「真夏の果実」などもそうであるが、イントロが始まると歓声がわぁっとあがるのではなく静かでも力強い拍手が響くこの瞬間が好きである。1980年にリリース「タイニイ・バブルス」収録。私の中ではどこか「旅姿六人衆」と兄弟のような存在、あるいは方向は違うが対をなす存在のようなイメージだ。言葉にするのは難しいが、どちらもサザン初期のことが描かれているとは思うのだが、旅姿はスタッフやメンバーへの感謝であるのに対し、こちらの曲は自分たちの中に眠る、普段は隠している本心のようなもの。旅姿に表面上の思いが書かれているなんて思わないし、率直に「影で動く男たち」への熱い思いを歌っているが、それでも旅姿はスターとしてのサザンで、働けロックバンドはもっと根源的な、人としての、というか、自然に覚える感情みたいな、嘘・偽りのない本心…ここについては本当にうまく言語化できない(ほんとにそれこそ“言葉にできない”)。いつか誰にでも伝わるような言葉で語りたいとは思うのだが、少なくとも旅姿とこの曲は全く別ではなく繋がりがある、けれど決して同じサザンを映しているわけではない。今はそんなところである。サビで「Working for T.V.」と叫ぶところはやはりアツいものを感じる。背景の映像には当時の音楽番組、そのほかにもバラエティに出るサザンの姿が。「誰にわかるというの?」天才には天才なりの、スターにはスターにしかわからない苦悩があるのか。実はこの2曲は時を超えて「SMILE〜晴れ渡る空のように〜」にもつながったりするのでは、なんて思う。この曲を聴くと、なんというか、涙が出てくる。


 大きな拍手と歓声が上がった。桑田さん「どうもありがとうっ!」場内が一度暗転。


22.   暮れゆく街のふたり

 正面の背景スクリーンには、夕方のどこか寂れた(さびれた)街を歩くような映像が。続く形で重たいイントロで始まったのは「暮れゆく街のふたり」。特別企画「サザンと夜遊び」で初公開、つまりアルバム収録曲の中では一番最後に発表となった曲である。映画の主題歌ということもあったのかもしれない。私はこの曲のようなポジションの曲が好きだ。どういうことかというと、これもまた説明が難しいのであるが。例えば、、


葡萄→道

がらくた(ソロ)→春まだ遠く

ごはんEP(ソロ)→鬼灯

婦人の肖像(原坊)→初恋のメロディ


 のような曲がこのポジションというかジャンルに入る(あくまでも個人的な考えだが)。アルバムの中でマイナーな曲、という単純な括り方ではなく、確かにマイナーな位置付けなのかもしれないが、ただ存在感が薄いのではなく、聞けば聞くほど味が出てくるというか徐々にその曲がないとアルバムが締まらないと感じるようになる不思議な感覚


静かに舞台の幕が閉じるかのように場内が暗転した。少し時間を置いてから、映像には真っ青な大きな地球が。そしてゴオォ…というジェット音と共にロケットが横切り、続くようにして輝くようなイントロが。


23.   夢の宇宙旅行

 ステージを照らす照明が一気に明るくなり、手首のライトも光り始めた。大きな歓声と手拍子が会場に鳴り響く。「夢の宇宙旅行」こちらもニューアルバム収録曲。流れ星の群れをよけながら進んでいく爽快感ある映像が流れる。アニメの主題歌になるのでは、なんて最初は思っていた。ちょうど一年前、この曲が初公開になってからしばらく聴いていた記憶がある。やはり、歌詞もメロディもサザンなのだが、それでいてこれまでにあったようで実はない、つまり「新曲」であるわけだ。「追いすがる謎多かりし隕石の舞」「あの夜に咲く沙羅双樹の花」「報われぬ日々の総決算」など好きな歌詞が詰まっている曲でもある。とにかく、桑田さんの詞は何がすごいかといえばそれは「美しい」ということになるだろう。ソロ作品「古の風吹く杜」では「ざわめく木立に隠れた不思議な気配に戸惑う」という歌詞がサビに出てくる。私はこの詞が好きである。一つ一つの言葉は難しくないし、聞き馴染みがある。しかしそれが組み合わさりメロディに乗るとこれまた魔法のように、美しく思えるわけだ。上にあげた3つの歌詞もそうである。他にも原坊ボーカルの「北鎌倉の思い出」より「雪解けの水絶えざるを願う頃」という歌詞。ただ難しい言葉や高度な知識を組み合わせているという難解さではなく、平易で伝わりやすい言葉の連続なのに“なぜか”美しく感じるという方の難解さである。普通、こんな美しい歌詞が書けたらはっきりとメロディに乗せて重さを持たせて歌いたいと思う(もし私ならそうしたい)。が、そこも流石のサザンである。それだけの歌詞を、さらっと颯爽としたメロディに溶け込ませてわざとらしくしない、ここが魅力だと思う。


 曲が終わると、何やら宇宙のはるか彼方から何やら怪しいモンスターのような影が大量に近づいてくる。ん?あれはもしやあのMVの…

 

 ライブは遂に終盤へ。