ライブ当日。

 THANK YOU SO MUCHツアーでサザンは活動に一区切りをつけてしまうのかと思っていた不安を跳ね除けるかのようにサザン公式から吉報があったのは、最終日の東京ドーム公演が終わった翌日のこと。東京ドームの千秋楽が終わりいつも通り公式Xではツアーの完走が発表されたわけですが、その後気になる投稿が。「サザンオールスターズ、続く」というメッセージ。これはサザンがロッキン2024への出演や恋ブギのリリース、そしてニューアルバムが制作されることが発表となったあの日にも見たメッセージ。そして翌日の朝4時、嬉しい告知があった。それはサザンが年末の年越しライブを行なうというもの。横浜アリーナで計4日間12/27,28,30,31開催される。サザンは全国のアリーナを行脚してきたが、特に横浜アリーナは特別なものがある実は横アリでのサザンライブには行ったことがなかった。強いていうなら、2016年ソロ「ヨシ子さんへの手紙」、2022年ソロ「おたげん5倍返しツアー」の追加公演には参加をしているがサザンはなかった。「ひつじだよ」「Keep Smilin’」「ほぼほぼ年越し」など映像では何度も観てきたが生で観てはいない。そしてTHANK YOU SO MUCHツアーでの抽選も先行も注釈付きも、ことごとくはずれにはずれ、私はきっと「横アリサザン」には縁がないんだと諦めかけていた。しかし長年の念願叶いついに横アリのチケットを手にすることができた。


(※という、あくまでも架空の設定で進めていきます笑、妄想はそれはそれで儚いものですが泣)


 2025年12月31日。ついにライブ当日を迎えた。

 私が初めてサザンのライブに参加したのは10年前の葡萄ツアー。あの頃はほとんどの曲を知らないような状態で挑んだが、今となってはほとんどの曲を知っているからこそ自分の中にこだわりがある。セトリは当日までは見ない。情報を入れず色々と想像を巡らせて本番を迎えるようにしている。特に1曲目。何が来るだろう?


 ライブはいつもより少し遅い22時開演。JRでやってきたが、電車に乗っている時からTHANK YOU SO MUCHツアーの時のグッズを身にまとった人を数人見かけた。これもライブのときはいつも覚える不思議な感覚である。電車の中からもうライブは始まっているのでは、と思う。お互い見ず知らずの相手であり、年齢も違うしファン歴も違う。しかし、向かっている場所は皆同じ横浜アリーナ、あるいはその先にある何かである。話すこともないが不思議な一体感がこの車内に漂う。私はこの時間も好きである

 

 新横浜駅に降り立った。さいたまの時もそうだが、大規模なイベントがあるということで警備員が多く歩いてたり誘導をしている。やはりライブは会場だけでなく、こういうところから始まっているんだろう。桑田さんも茅ヶ崎のMCで「家に帰るまでがライブです」と言っていたが冗談抜きでそう思う。ステージを生で観ることだけではなく「非日常そのもの」がライブなんだと。


 アリーナが見えてきた。

 入場の瞬間(とき)も近い。


(※これは2022年参加した際の写真です)

 階段を降りる。右手に入場口がある。人だかりが見える。この中にもお世話になったフォロワーさんがいるんだろうか。看板をバックに写真を撮る人々の世代は幅広い。おっといけない。浮かれる前に身分証明書の準備である。スマホのQRコードは不具合が出たときのためにわざわざスクショまでしておいた。無事にゲートを通れると今度はQRコードをかざしてチケットを受け取った。とりあえず、流されるように進んでいき指定の扉まで来た。会場内が見えた。この瞬間も興奮する。チケットに書かれている数字と階段付近の番号を交互に見つつ自分の席を目指す。


 (あそこらへんかな…)


 なぜか、自分の席にもう他の人が座っていたらどうしようと瞬間的に不安になることがある。無論そんなことはないはずなのだが。席にたどり着いた。時間の関係もありロッカーは使えなかったので上着を脱いで椅子の下へ。そして一度座って景色を見渡してみる。今回はセンターではなかったが、ちょうど右斜め前の方向にステージを観る感じだ。確かにステージに近い方が良いことに変わりはない。が、席はどこであれどの席にもそこでしか得られない楽しみ方がある。ここからならステージや両サイドのスクリーンはもちろん、少し振り返れば後方まで幅広く見える。


 さて、あとはその時を待つのみ。


 毛ガニさんも少し昔のインタビューで話していたが、ライブ当日はいろんな人がいろんな場所からその日のためにスケジュールを合わせてやってくる。普段は別々の場所にいるが、この日だけは一体となって楽しむ。もうすぐ始まろうとしているのだ。


 開演時刻の3分前である。気づけばもう客席のほとんどが埋まっている。いつものアナウンスが会場に響き渡った。


「皆さん、本日はキョードーヨコハマ主催、サザンオールスターズ年越しライブ2025にお越しいただき、ま・こ・と・にありがとうございます!!!」


 それに応えるかの如く大きな拍手と声援。


「開演に先立ちまして・・・」


 このアナウンスも今ではライブの風物詩。このアナウンスが始まると興奮もしてくるのだが、これもまた不思議なことに緊張感も走る。ライブでしか味わえない独特の感覚。アナウンスが終わり、また少し会場がざわつき始める。そして場内が暗転した。先ほどを大きく上回る喝采。目を凝らすとステージ上のわずかなライトのおかげで、サポートメンバーが先に登場してきたのが見えた。そしてメンバーの登場である。少しだけ場内が明るくなった。毛ガニさん、松田さん、原さん、関口さんの順に登場してきた。会場内のみんながステージに手を振る。そして、桑田さんが現れた。桑田さんは手を振りながら、色々な方向に向けてありがとう、という感じで頭を下げている。ステージ上にはすでにマイクスタンドが置かれていた。桑田さんがスタッフからギターを受けとり肩に掛けていると、サウンドチェックの音が聞こえてきた。準備が整ったようだ。


「…いきましょか〜!!!」


 桑田さんの声に客席が沸く。1曲目は桑田さんの「1、2、3、4」というカウントから始まった。力強く響く原坊のキーボードの音。


1.  I AM YOUR SINGER

 まるでおかえりと言ってくれているようだった。桑田さんがギターを持ってこの曲を演るのはあまり見たことがない。私が物心つく前のライブ「真夏の大感謝祭」の映像では5人のメンバーが踊っていたし、2019のふざけるなでも桑田さんはハンドマイクで歌っていた。照明は全体的に暖色だ。この曲が発表されたときのことは後で知った。国民的バンドの活動休止という重さを背負った上で、どこか悲しいメロディにも関わらず明るく前に進もうという力強さをもった1曲。サザンは復活を果たし、また帰ってきてくれた。


 そしてラスト。

 嗚呼 来年も微笑みを 

 Oh oh いつの日も乗せて


 ライブの醍醐味、歌詞変更が。ここでもまた場内が湧いた。ラスサビでは5人の映像が真ん中に流れ、

「皆さん今日は本当にありがとうございます!せ〜の!」桑田さんが締めた。一度場内が暗転。そしてすぐにカウントが。演奏開始とともに緑色のライトがステージ裏を照らす。


2.  胸いっぱいの愛と情熱をあなたへ

 2曲目にこれを持ってくるか、と思わせる一曲。最近のライブでやっていた印象はない。オリジナルアルバム「Young Love」の1曲目を飾っている。高音領域は少しきつそうだ。途中、間奏では斎藤誠さんのパートがスクリーンに映された。爽快感のあるメロディ。初めて聞いたときのことを思い出す。先ほども述べたアルバムYoung Loveは同名の曲や「愛の言霊〜Spiritual Message〜」「Moon Light Lover」など大御所とも言える曲を収録しているが、私がこのアルバムをしっかり聴くきっかけになったのは2018のNHK特集。年始に新春スペシャルということでNHKスタジオ収録の完全版が流れたのだが、そのときに「汚れた台所」を初めて聞いて衝撃を受けた。魅力は話せば長くなるから割愛するが、そのときにYoung Loveをじっくり聴き始めたような思い出がある。これはその1曲目で、これまた強く印象に残った。途中、「雨に打たれ風に震え…」からの部分は少しステージ上の照明が青っぽく変化した。そこからまたサビに向けて緑に。確かに自分のイメージと合った配色だ。歌い終わりに「どうもありがとぅ!」そして、続いてスライドするように次の曲へ。


3.  バラ色の人生

 2015年リリースのアルバム「葡萄」15曲目に収録。曲が始まると中央スクリーンにはインスタライブを彷彿とさせる画面とそこに昔のサザンの映像が流れ始めた。まるで時を超えて中継しているよう。この曲には思い出がある。この曲はおいしい葡萄の旅以来。あのとき中学生だった私は東京ドームで初めてサザンのライブに参加し、圧倒される一方で記憶に焼きつく曲が何曲かある。そのうちの一つがこれである。あのライブでも背景のスクリーンにはiPhoneのホーム画面やチャットのやり取りを模した映像が流れていた。あれを観たときに、CG映像を作る仕事に興味をもった。音楽に関してはさっぱり分からないが、ライブの演出を考える仕事をしてみたい!とそのとき思ったのを強く覚えている。最終的に私は違う方面の職を目指すことになったわけだが、今でも背景映像に注目して色々と考えることはライブの楽しみの一つである。サビでは舞台の5人と客席の映像が画面分割のような形で流れていた。2015のときとは感じ方が違う。コロナ禍のオンライン授業やWebexミーティングが思い浮かぶ。離れたところでもエンタメで繋がれる、そんなメッセージのようにも感じられる。




 曲が終わると最初のMCが始まった。


桑田さん(以下、表記上の都合で桑)が話し始めると会場内が明るくなる。


桑「こ〜んば〜んわ〜!」

客席からのレスポンス。メンバーが順にスクリーンに映される。


桑「えぇ、はい。ということでございまして、我々サザンオールスターズ、この横浜アリーナの地に再び帰ってまいりました、本当にありがとうございます。ねえ、ほんとに寒い中わざわざ、あのぉ、こんなね、もう一線を退いたような我々高齢者の…」


客席から笑いが。少し前に31年ぶりのオリジナルアルバムリリースということもあり、原坊が「マツコの知らない世界」に出演したのを観た。テーマは「鎌倉・湘南の世界」。その際にマツコさんからサザンが45年間ずっと音楽界の一線だと言われると原坊は否定していたが、謙遜にも程がある。マツコさん曰く「サザンが一線でなければ他(のアーティスト)は何線ですか?!」とのことであったが、全くもってその通りと思う。もちろん、桑田さんのこういう冗談はライブの定番でもあるわけだが。


桑「あのぉ、さっきスタッフから言われたんですけどね、実は今日はなんとなんと大晦日ということで。ついさっきまで気づかなかったんですけど。ええ、で、あのこれも毎度のことですけど、せっかくお取りいただいたお席ですから、みなさん座ってくださいよほんとに。」


客席(笑)


桑「もうほら、あの、倒れられても我々どうしようもできませんから。先に言っておきますけど今日はほんとに盛り上がりません。人気のない曲ばっかやります。で、すこ〜しだけ盛り上がって、で年越しをして、とっとと帰らせていただくという、そんな形になってます。…ええ、ということでもう四の五の言わずに次の曲をやれということですので、ええ、では、慎みまして、最後の曲です…


メンバー大コケ。客席からも歓声が。


桑「…(ボケを)練習してたみたいじゃねえかよおい。あの大晦日なのでね、色々指示されてるんですよ若いスタッフに。もう少しだけ話してくださいみたいね、あの時間調整の方が」


腕時計を指すようなそぶり。


桑「はい、ということででは早速、次の曲にいかせていただこうかと思います。ちょっと古い曲です。(両手を挙げて)…今日は盛り上がりましょ〜!」


さあ、どんな曲が来るだろう…


ー続く。