「ラストオーダーはね、自分で育てるものなのよ。」
青年はニコッと笑って・・・
「がんばりますっ
」

と爽やかな笑顔を残して帰って行きました。
「先生、上手いこと言うねぇ~
」

てへっ

そこへ・・・ガラガラッ
「へいっらっしゃいっ
」

「あ、あの~、あったまっちゃったんで、着るの忘れちゃいました
」

先ほどの青年、コートを着ないで帰ってしまい、駅に着く前に寒くて気が付いたようでした。
あはは、何気に舞い上がっちゃってたのね。良い青年じゃ。

よほどラストオーダーの謎が気になっていたんだねと、3人で大笑い。
「ラストオーダーなんてね、そんなもんねぇ~んだよ。ありがたいよねぇ。暇な時は閉めちゃうんだから・・・。」
と大将が大きな事をいった時でした・・・
ガラガラガラッ
また別の青年が申し訳なさそうに入って来たのです。
「あ、あのぉ~、何時までいいですかぁ?」
11時をとおに過ぎていたんです。
啖呵を切ったばかりの大将も・・・
「え、えぇ~っとね。」
と時計の方を見やりながら考えて・・・
「12時過ぎぐらいまでいいですよ。」
じゃぁと常連さんと反対側のカウンター隅の席に座ったんです。
いいのよ、今ね大将ちょうどラストオーダーなんてもんはないんだって言ってたばっかりなんだから。
「はい、でも12時40分が終電なんで、それまでには帰ります
」

あはは、何て日なんでしょうね。
で、結局またそこから普通に3人の客の飲み食いが始まりました。
「僕さ、クリームチーズと春菊和え頂戴。」
さすが常連さん、そんなのあるのね。
食べてみませんかと言っていただいたので、スプーンをお借りして、ついでにその若者君にもおすそ分け。
あら、美味しい。
春菊の苦味とクリームチーズが合うんですね。
干し柿とクリームチーズも美味しいんだけど・・・。
じゃあ、私明太子の炙り頂戴。
あ、もう炭消しちゃった?
「いや、まだ明太子炙れるパワーは残ってますよ。」
手間のかかるもの頼んじゃ、悪いからさ。
あ、ポテトサラダなんかも出来てるやつつぐだけでいいもんねぇ。
「あはは、いいんですよ。ま、1番手間のかからないのはお酒だけどね。
」

そりゃそうね、じゃ何かお勧めの芋頂戴ね。
私の父は鹿児島の長島出身で、叔母が島美人という焼酎を作っている会社の社長をしているものですから、私はガツンとくる芋が好きなんです。
大将も鹿児島出身なので、入手ルートがあるんですよね。
そうそうこれこれ。
「僕もそれもらおうかな。」と常連さん。
丁度ビールを飲み終わった若者に
「お次、何を飲まれますか?いつもは何を?」
「あ、僕あまりビールぐらいしか飲まないんですけど・・・。僕にも、ガツンとでなくて、1番優しい芋下さい。」
この若者、適度にこちらに馴染んでくれて、良い青年です。
炙り明太子の横に少し大根おろしが付いてきました。
「あ、それは普通の大根おろしだからね。」
あ、辛味じゃないのね。
「辛味大根ってあるんですか?」
大将、この子にちょっと味見さしてやってよ。
「うわっ、からぁ~い
」

と言ってたわりに、辛味大根蕎麦を注文していたので、気に入ったようでした。
大人の味を覚えちゃったね

話題は私が蕎麦焼酎蕎麦湯割りを自宅で飲みたくて、ネットで買った蕎麦を打つ時に使う蕎麦の実の芯を粉にした「打ち粉」の話に。
2キロかと思って注文したら、なんと10キロのが到着し、怖くて開けられないでいるのです。
1度大将に要らないか聞いてみたのですが、即答で「いらねぇ~なぁ~」と笑われてしまいました。
一回蕎麦湯割りを作るのに大さじ2杯。いったい何年毎晩飲み続けると10キロの打ち粉を飲み切れるのでしょう。
絨毯に撒いて掃除機ですうか?
「重曹じゃねぇしなぁ~。」
んじゃ、顔にパックするとか?
「美味しかぁないだろうけど、一応蕎麦の粉なんだからクレープとかお好み焼きとかは出来るんじゃないの?」
美味しかぁ~ないんじゃあね。
笑っていた常連さんも色々考えてくれて
「駅前のドトールで抹茶ラテみたいに、打ち粉ラテとか。あはは、打ち粉ソイラテとか、ヘルシーそうですよね。」
散々いろんなアイデアが出て・・・
「ま、こんだけ話のネタにはなったんだから、それだけでも価値あるんじゃね?その10キロ打ち粉。」
確かにね。
お初にお会いした先輩常連さんやら深夜に登場した若者、大将、店員さんと楽しい時間を過ごせたんですものね。
無用の用・・・
役に立たないように見えるものでも、かえって役に立つこともある。この世に無用なものは存在しないという教え。
・・・ですね。
店を出たのは1時をとおに過ぎておりました。
なんともホッコリとした夜でした。