花の枝(え) | 山風に吹かれた櫻葉へのつぶやき。

山風に吹かれた櫻葉へのつぶやき。

ある時は嵐情報。またある時は櫻葉妄想小説。自由に生きております。
腐寄りにつきノーマルアラシックさまは速やかにご退出くださいませ。


最近めっきりキミからの受信数の減った携帯をテーブルに放り出して

缶のプルタブを開く




今頃キミは

俺じゃない誰かの傍(そば)で
その鈴の音(ね)のような笑い声で

周りを包み込む春風のように
優しく笑っているのだろうか





小さくても積み重ねてきた努力が少しずつ実を結び

今はゆっくり休む間も殆ど取れないほど忙しくしているキミに



良かったねと誇らしく思う反面

キチンと休めているだろうか
しっかり食べれているだろうかと。


もともと細いカラダを
更に細くしていないかと

心配してしまう



弱音を吐かないキミだから

不安を努力でカバーしようと頑張り過ぎるキミだから



逢えない分
余計に抱き締めたくなるんだよ




急に部屋を広く感じた瞬間、

点け流していたテレビの中
ライトアップされて濃紺に白く浮かび上がった春の風物詩が映った




脳裏に想い浮かんだのは、
去年、共に見上げた花嵐───




ゴクゴクと缶の中身を飲み干して

やっぱりこの手に抱き締めたいと立ち上がる



階下に車(タクシー)を呼び寄せて
鍵(キー)を手に取り上着を羽織った



早く


早く



キミの元へ



今そこにいなくてもいい

帰ってくるならそれでいい



車(タクシー)を降りてふと思い立ち
あの公園へと足を向ける



去年と変わらぬ、見事な花付きに呼吸も忘れて見上げ仰いだ。




瞳(め)を閉じると、
背中(うしろ)にキミが飛びついてきそうで───。






瞳(め)を閉じたまま鼻から息を吸い
ゆっくりと深呼吸をし

一年前の春の夜に想いを馳せた






冷たい風が頬を撫でる






帰ろうと瞳(め)を開けると

月明かりの下、誰かのイタズラなのか故意なのか、
公園の端に複数の枝が重なり置いてあるのが目に入った


愛しい人との宅飲みに華を添えてくれよと花付きの良い枝を一本頂くと

来た道を軽い足取りで戻った 







主人(あるじ)のまだ居ぬその部屋は
空気こそ冷えてはいたけれど




「・・・コレでいっか、」




シンクの横に洗ってあった何かの空き瓶にその枝を挿すと
我ながらなかなか良いじゃないかと胸がフワリと暖かくなった



早く帰っておいで



今年は一緒に花見酒でもしよう
花の数は少なくとも
俺の隣にキミさえいれば。



なぁ、

早く帰って来いよ



この腕の中にその身を埋めたらいい

疲れた羽根を癒してあげる



早く


早く



キミに逢いたいよ




{A12572C1-391B-4373-9DCF-D417E2BA8A85}