Hoop*5
余裕ない気持ちを見透かされないように、
着替えの手を止めずに聞いてみた。
「えっ・・・?」
何だよ『えっ、』って。
今までも俺から誘ったことあンだろ?
今俺別におかしな流れじゃ無かったよな?!
頼む予定はないと言ってくれ!
「ハハ、えっ、て。
なぁ、特に予定ないなら、メシでも食い行かね?」
キャップを被って『ん?』って見ると、
相葉くんは少し俯いた角度からチラッて上目遣いに俺を見て
頬をサッと染めた。
「いいケド、おれ今日足(アシ)ないよ?」
構わねーよ、って、心の中で突っ込みながら
断られなかったことにホッとして
「俺もだよ、いいよタクろう?」
荷物を取り上げた。
楽屋から出演者用クロークを通り過ぎる間にスマホからレストランの予約を入れ、
俺が今日どういうつもりで誘い出したかなんてまるで知らずにフツーについてくる相葉くんを先にタクシーに乗せた。
タクシーで地上に出ると霧雨が降っていて、
窓の外の景色の光を滲ませた。
「あっ、クソ、なんだよ雨かよ、」
うっかり言葉が漏れる。
「えっ?どぉしたの?
なんで?どぉかした?」
窓の外を見ていた雅紀が俺の言葉に振り向いた。
「えっ、ぃやァ・・・、」
実は、今向かっているレストランは眺望が売りの一つの、
言ってみたら俺にとって“勝負”に使うような場所だった。
「テラス席もあるトコだったからさ、」
「あぁ〜、そうだね、もう夏も終わるもんねぇ、
ビアガーデンとかもさ、もうずっと行ってないよね〜・・・」
相葉くんはおでこをコツンと窓に寄せて、
前髪の下から空を見上げて
「でもおれ雨降りも好きだよ?」
って花が開くような笑顔で振り向いた。
ドクン、
・・・相葉くんの仕草や笑顔が、
いちいち俺の心を揺さぶる。
負を正に変える発言も、
その姿勢も。
「そっか。そうだな。」
───好きだ、って。
膝の上に置いた拳に
キュッと力を入れた。