最初お話→#1A
前回のお話→#46A
「ふぅ~ん。そっか。
しょぉちゃん、やっぱ昔の方が分かりやすかったんだね。」
昔、覚えたての夜遊びに夢中になってた頃の翔サンの話をオレから聞き出したまーは
缶ビールの残りを一気にグラスに注ぐと
ゴクリと一口飲み込んで
はぁ、と溜息をついた。
「でもさぁ、しょぉちゃんは僕には何にも言わないんだよ。
いいなぁ、じゅんはしょぉちゃんとケンカだってしたんでしょ?」
少しだけ、って言ってたくせに
まーは飲み始めたら
早いピッチでグラスを空け続けて
あっという間に出来上がって
只今絶賛、絡み酒中。
「まーに心配かけたくないって、
翔サンの優しさなんじゃね?」
テーブルに突っ伏したまーの手から
ビールの入ったグラスを取り上げて
代わりに水の入ったグラスを持たせてやる。
「・・・がう。」
「ガウ?」
「違う・・・」
「何が違うの?」
「・・・」
「まー?」
テーブルに右頬をつけて
ボンヤリと焦点の合わないまま
「僕がさ・・・、
頼り甲斐ないからだよ・・・。
しょぉちゃんの悩みなんて・・・
聞いたところで僕にはきっと解決なんてできないような難しいことなんだって。
・・・情けないよね、ふふ。」
って笑って瞳(め)を閉じた。
「・・・そんなことねぇって・・・」
柔らかい髪に触れる。
目頭に滲んだ涙を見つけて、
こんな風にまーに想われてる翔サンが羨ましい、と思った。
「まー、寝る?
泊まってきなよ、」
声を掛けるとまーは
姿勢を正して一気に水を飲み干して
「ん、ありがと。
でも今日は帰るね、」
って、立ち上がった。
急に帰ると言われて慌てる。
「あ、まー、待って?
今タクシー呼ぶから、」
オレの声に耳を貸さずに
椅子にかけたストールを首に巻きつけると
「大丈夫、少し歩いた方が冷めるしすぐ拾える。
ありがとね?」
って、あっという間に出て行ってしまった。
「まー、待って、上着!」
玄関脇のクローゼットからまーのトレンチを掴んで追いかけたけど
まーを乗せたエレベーターはもう1階の到着を示していた。
ボタンを連打して
また扉が開くのを待って飛び乗る。
でも。
階下(した)に着いても、
やっぱりまーの姿はもうなくて。
「明日は、雨かな・・・」
頬を撫でた生ぬるい風に、
これなら上着がなくても大丈夫かなって思って、
無造作に持っていたトレンチを軽くたたむように持ち直して
エントランスへと戻った。