Moon#8
早朝、マネージャーの運転する車内。
日本を離れる前に、頼まれていたものをどうしても届けなくてはならなくて
と夕べのうちに連絡をして、
雅紀のマンションに立ち寄る時間を確保していた。
玄関先に置いてくるだけだと、マネージャーには下で待っていてもらい
合鍵を使ってそっと部屋に入る。
シンと静まりかえったリビングを抜け、ベッドルームに向かう。
外の冷気を連れ込まないように部屋の手前でコートを脱ぎ、手袋を外した。
音を立てないよう細心の注意を払ってそっとドアを開けると
ベッドの中に小さく丸まった愛しい姿を見つけた。
足音を立てないよう近付き、自身の指が冷たくないか確認してからそっとその柔らかな髪に触れる。
あぁ、雅紀だ・・・
胸の内側にポッと暖かな灯がともる。
愛おしい気持ちで髪から耳、首筋と指を滑らせる。
その首に光る細いチェーンを見つけ、胸がくすぐったくてクスッ、と笑みがこぼれる。
これこれ。コレをね、外しに来たんだ。
あれ?つなぎ目、どこだ?
するするとチェーンを手繰り、取り外す。
そうして自分の首から外した三日月を、そっと雅紀の首に・・・
ん、なんだこれ。
難しいな、ヤベェ、起こさないように早くしねぇと・・・
どうにか三日月を雅紀に付けると、
最後に可愛い寝顔を目に焼き付けて・・・
触れるだけの、切ないキスをした。
音を立てないようにベッドルームのドアを閉め、
「行ってきます、雅紀。」
そう小さく呟くとコートを羽織って玄関を出る。
暖かくなった心を冷気に奪われないよう、急ぎ足でエレベータへ向かった。
→#9へ