Moon#1
ソチへ発つ前日の夜。
たくさんの荷物と空のスーツケースを前にどう詰めて行こうか思案中。
本当に、何度旅行に出ても荷造りには苦手意識が働く。
まだ目を通したい資料もあるのに時間を無駄にしたくない。
あまつさえ愛しい雅紀との時間もなくなるじゃないか。
「まぁさきィー」
嵐のメンバーの中でも荷物をまとめるのがうまい彼に手伝ってもらおうと、ソファーの上に寝転がる愛しい姿に助けを求める。
予想に反して俺の雅紀は台本を広げたまま視線だけこちらに流しただけで、いつものあの愛くるしい笑顔を見せてくれない。
「・・・おれが今それ詰めちゃったらさ、帰りはもっと困るでしょ?
ほら、しょぉちゃん頑張って自分でやらないと!」
いや、それはもっともなんだが・・・
まさかこんな風に突き放されるなんて思ってはいなかった。
「こんなの、ぜってー入んねーよ! これもこれもこれも、全部いるし。
ってか あっちにもまだ入れんのあるし・・・」
そう言いながら、雅紀の表情を注視する。
なんか、今夜の雅紀はうちに着いた時からちょっとよそよそしかった。
帰ってきて抱きしめた時も、キスを交わした時も、「翔ちゃんソチの用意しないとね」って、「おれもセリフ覚えなきゃ」って、すぐソファーに行っちまったし・・・
「しょぉちゃん、まずさ、ユウセンジュンイ決めよ?
ゼッタイ持って行きたいモノはどれなの?」
ちょっと怪訝そうに言う雅紀。
なんだよ、なんでそんなに機嫌悪そうにしてんだよ。
「絶対・・・?・・・これでしょ!」
その仏頂面を赤く染めてやりたくて、台本を持つ華奢な腕を強引に引き寄せるとズルリとその細い体がソファーから落ちた。
「ぃてェ~! ちょっとしょぉちゃんっ?!」
怒ってる口調の割に、ちょっと嬉しそうな表情をしたのを見逃さない。
「・・・コレ一番大事なのに、入ンねーし。」
柔らかな髪の雅紀の頭を腕の中に抱え込むようにして、子ネコにそうするように撫でまわす。
「もぉ~、・・・しょぉちゃん、今、そんなふざけてる場合じゃないでしょ?
っつーかコレって何だよ、コレって・・・」
可愛い口を尖らせて文句を言ってる雅紀のことを更に引き寄せながら抱き起こすと、ふわりとシャンプーの甘い香りが鼻先をくすぐる。
「あー、マジ持ってきてェ!機内に持ち込みてェ!」
たまらずほおずりをすると、思いがけない雅紀の言葉。
「あっ・・・ちょっ、ね、しょぉちゃ、あんま、おれに触んないで?」
えっ、なんだよそれ。 なんだよ、触んなって。
反抗心を煽られる。
「うっさい!翔さん、只今エネルギー補給中!」
腕に力を込めて、雅紀のカラダを全身で包み込んで甘い香りの中へ鼻を埋めると、腕の中からか細い声が聞こえてくる。
「ダメだよ・・・ しょぉちゃん、おれさ、今、シュギョォしてんの。」
「はぁ? 何のよ?」
まだ触り慣れない短くなった雅紀の後頭部を記憶するように触っていた指の動きを止めて雅紀の目を覗き込んだ。
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