Side-S *2
バレンタインだからかな・・・?
いつもより翔ちゃんに甘やかされてる気がする。くふふ。
そう思いながらそっと翔ちゃんの指にこの指を絡める。
「つめてーな。お前、雪なんて触るから。」
あっ、ゴメン、って言いかけた時、右手が大きく持ち上げられて翔ちゃんの口元へ近付いた。
ドキッとして翔ちゃんを見ると、ハァッて息をかけてくれた後、翔ちゃんがおれの指に唇を押し当てたまま真っ直ぐに見つめてきた。
揺るぎのない翔ちゃんの熱い視線・・・やば・・・そんな視線で見られたらドギマギしちゃうって。
「ぁ・・・だからさ・・・そんな風に・・・み、見んなって」
動揺してうつむいたんだけどあごに翔ちゃんの右手が添えられて上を向かされた。
胸がキュってなると同時に翔ちゃんの顔が近付いて弾力のある温かな唇が重ねられ、チュ、と音を立ててすぐまた離れる。
それは一瞬で、甘い余韻に浸る間もなく翔ちゃんが身体を離す。
「戻ろ?雅紀に雪が積もっちゃう」
一瞬寂しく感じたおれのココロを読んだかのように、つないだ右手をそのまま翔ちゃんのダッフルのポケットに突っ込んで歩き出す。
・・・写真もそうだけど、こんな風に外でキスとかさ・・・手をつないで歩けるなんて思ってもなかったよ・・・
「ふふ。なぁんか、うれしい」
思わず呟いちゃったおれの言葉に気付いたのか気付いてないのか分からなかったけど・・・翔ちゃんはまっすぐ前を向いたままだったけど・・・絡めた指にキュ、って力が入るのを感じた。
音のない公園を車に戻るまでの数分間。
言葉は交わさなくても、つないだ手から暖かい想いが伝わってくる気がする。
なんだかまるで世界に二人だけになったような錯覚の中、二人の足跡を雪に残しながら歩く。
「はぁ~っ、さむかったねっ!」
「マジ冷えたわ」
駐車場から車を出そうとバックする時、翔ちゃんの右手がこっちに回されて思わずドキッとする。
あぁ、なんかさっきからおればっかり意識しすぎちゃってない?
雪、なんてロマンチックなシチュエーションのせいかな?
いやっ、なんだか今日はいつも以上に翔ちゃんがかっこいいんだよね。ゼッタイそのせいだって。
翔ちゃんの端正な顔に視線を這わせながらそんなコトを考える。
「ん?どした?」
急に目が合って思わずパッと目を逸らす。
「・・・ぃや、ほらっ、よくゆうじゃん?女のコがさ、『バックする時の仕草にキュンとくる』って。今・・・なんかちょっと分かった気するかもって・・・
くふふっ」
「キュンと来ちゃった?」
「来ちゃいましたっ?!」
この胸のドキドキを悟られないように、冗談っぽく笑い飛ばさなくちゃ!
・・・って思ってたら、急に視界を遮って翔ちゃんが唇を重ねてきた。
今度は・・・さっきまでの、すぐ離れちゃうキスみたいじゃなくて、ちょっと強引に、深く求められる・・・
翔ちゃんの押し開くような舌遣いに口腔を支配され、冷えた鼻先と対照的に温かな舌がトロリと絡み合う。
「ん・・・っ、・・・っふ、・・・んんっ」
脳の芯まで貫かれるような翔ちゃんの甘いキスに、息が詰まりそうに苦しく、胸の内に想いが切なく張り詰めて小さく声が漏れる・・・。
