昔は、
「おいしい!」「これ、また作って!」
なんて、キラキラした笑顔で言ってくれてた。
仕事で疲れて帰ってきても、
「今日の味噌汁、なんかホッとするなぁ」なんて言ってくれたあの頃。
それが今では、
「……うん。」
その「うん」の中に、何の感情も見えない。
しかも顔が微妙。
口では「美味しいよ」って言ってるけど、表情が“無”なのよ。
なんだろう、あれ。
感情が出張中なの?
営業職なのに、表情が死んでるってどういうこと。
正直、最初は私の料理の腕が落ちたのかと思った。
いや、むしろ上がってるはず。
手際もよくなったし、味付けも前より安定してる。
だけど、あの「うまっ!」が聞けないと、
フライパンを振る腕に力が入らない。
美味しいって、魔法の言葉だと思う。
あの一言で、どれだけ妻たちは救われてるか。
それなのに夫は、左遷されてからずっと覇気がない。
仕事も新しい環境も、きっとしんどいんだろう。
わかってる。
わかってるけど、
ご飯の時ぐらい、ちょっと笑ってくれてもいいじゃない。
「何食べたい?」って聞いても、
「特にない」って返ってくる。
“特にない”って、人生諦めた人が言うセリフじゃない?
昔は「カレーがいい!」とか「餃子食べたい!」とか、
リクエストが多すぎて面倒くさいなって思ってたのに。
いざ言われなくなると、あのわがままが恋しい。
なんかね、
夫の元気のなさが、そのまま食卓に落ちてる気がする。
箸の進み方が、心の重さを物語ってる。
でも、そんな中で救いなのが子どもたち。
「ママのごはん、おいしいね!」
「これ、また作ってー!」
5歳と3歳の屈託のない笑顔。
その無邪気さが、毎日の疲れをふっと溶かしてくれる。
あぁ、そうか。
この子たちの“美味しい”のために、
私は今日もご飯を作ってるんだな。
夫よ。
あなたが左遷されたのは仕事だけど、
私まで“ご飯の喜び”から左遷させないでくれ。
美味しいの一言、
それだけで私は明日も笑顔で台所に立てるのよ。
どうか、次の晩ごはんでは少しでもいいから、
「うまい!」って言って。
それが、私のモチベーションだから。