279 「スティング」 観客は、ラストに向かって素敵に混乱していく | ササポンのブログ

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「マンガ夜話」という番組で
山上たつひこの「ガキデカ」が
巨大な隕石のように
すべてをなぎ倒してしまったせいで
その後に
なにも残らなかった。
もしかしたら
ギャグ漫画の世界で
そこそこの作品を残せたかもしれないひとの
存在すらも、
あまりな強烈な「ガキデカ」によって
焼き消されてしまったかもしれない・・。

この「スティング」という映画によって
コンゲーム、詐欺師の物語が
そこそこのレベルでは
認められなくなってしまった。

まあまあいいけど
「スティング」ほどじゃない。

かなり出来のいい詐欺師の物語であっても
観客はもう満足しない。
なぜなら
「スティング」があるから。

この映画と「明日に向かって撃て」のトリオ
ポールニューマンとロバートレッドフォード
そして
監督のジョージ・ロイヒル

晩年のニューマンとレッドフォードの対談で
このトリオによる映画を色々と企画したが
なかなか実現に到らなかった・・という話をしていた。

それは
恐らく
この2本があまりにも完璧すぎて
よっぽど
完璧な脚本じゃなくては
この2本を辱めることになる。

つまりは
再び
このトリオが組むのは
無理・・・
それを
賢明な2人にはわかっていた・・
けど
再び仕事したかった・・と寂しそうに語っていた。

その対談の時点で
もうロイヒル監督は亡くなっていた。

さて、ここから
ビシバシのネタバレです。

みてないひとは
絶対に読まないでください。

て、いうか
この映画、観てないひとっているの?

ペタしてね





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映画館で再見して
まず思ったのが
この映画も、
「時限爆弾解除映画の法則」に囚われているということです。

時限爆弾解除映画の法則
どんなに障害があろうとも、最後に最大の爆弾は爆発しない。
どんなに小さい爆発はあっても、最後には解除される。
つまりラストは決まっているのに
それで物語を引っ張らなくてはならない。

つまり
この映画の引っかけは絶対に成功する・・という
ロバート・ショウ演じるドイル・ロネガンは
絶対に間抜けに大金を巻き上げられる・・と決まっているのだ。

なぜなら
そうでなければ
この映画の世界は成り立たないからだ。

レッドフォード演じるジョニー・フッカと
ニューマン演じるヘンリー・ゴンドーフの引っかけがバレて
計画が失敗して
殺される・・なんて展開になるわけがない。

ここで
ハッと気がついたひとがいると思う。
この映画で最後に演じられる騙しの寸劇は
観客が、そんなふうになるわけない・・という展開なのだ。



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騙しの映画では
必ず途中でアクシデントが起こる。
これは
当たり前で
計画が安々と進んで
簡単に遂行されて
簡単に間抜けに
騙されてしまったら
日本でいうところの
貴方はきっと騙される・・的な
ライアーなんとか的な
安直、安易になってしまう。

かと言って
このアクシデントが安直だと
嘘っぽくなり
緊張感がなくなり、
日本で言うところの・・・(以下同文)

この映画でのアクシデントの役割は
すべてジョニーフッカーに関することに集約される。

彼を追っかけるチャールズダーニング扮するスナイダー警部補と
騙すドイルも、それと知らずにフッカーに殺し屋を送り込んでいた。

ここでのフッカーの若さゆえの軽率さが
ゴンドーフの完璧な計画のほつれとなって
サスペンスになっている。

つまりは
絶対に成功する・・と思っている観客を
サスペンスな不安で
振り回し、幻惑する。

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今度
もし
もう一度
この映画を観るときに注目してほしいのが
ニューマンの表情だ。

レッドフォードのまわりに、
色々なアクシデントの雰囲気を感じはじめたとき
だいじょうぶかよ・・・という表情を連発させる。

それをみせることで
観客も、だいじょうぶかよ・・と思う。
これが
つまり作品の内容をちゃんと理解した上の
演技というやつですね。
わかりますか東大香川大先生?

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ここで
ちょっと思い出してください。

スナイダー警部補を騙すためがFBI出てきたとき
本物だと思いましたか?
恐らく
疑り深いひとなら
このFBIが出てきた時点で
これは仕掛けかもしれない・・と見破って
みんなこの程度で騙されて・・と
薄笑いを浮かべた人がいるかもしれません。

ところが
そんな物知り顔の連中の言葉に
脚本のデイヴィッド・S・ウォードと
ロイヒル監督は
してやったり・・とほほ笑んでいるのですよ。

よくよく観てください。

このFBIのところの描写が
他のシーンと比べると
演技じみて
オーバーに見えませんか?

つまりは
監督は、観客に
「ここは騙してますよ」と
薄くわからせている気がします。
そう思わすことによって
観客は
騙しの演技と
本物が、
軽く混乱して、
ラストのどんでん返しが
読めなくなっていきます。

つまりは
あのスナイダー警部補すらも仕掛けか・・と
思ってしまう
楽しい混乱を
観客に与えるのです。



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そして
ラストの「とどめの一撃」

まずは
殺し屋のサリーノの正体と殺害

前夜の比較的、感傷的な、ゆっくりとした描写から
ここで
テンションと緊張を一気に高め、
さらに
ラストの引っかけに向けて
観客を混乱に陥れる。

一応、
レッドフォードにつきまとう殺し屋は
始末したが
あのFBIは、どうするんだ。
それよりもどうやって
大金をせしめるんだ・・。

もう
観客の頭の中の先読み回路がショートしてしまう。
つまりは
サスペンスでわくわくしてしまうのであります。

ここで
映画の字幕版では分かりにくい部分を少し補足。
吹き替えではちゃんと言っていたが
ロネガンに2着になる馬を教えたのは
複勝で買えという意味
複勝というのは3着まで入れば当たりと言う馬券
しかし
ロネガンは単勝で買ってしまった・・と。
単勝は1着じゃないと当たりにならない馬券。

英語のセリフ的には違うニアンスかもしれないが
日本ではこれが一番わかりやすいので
吹き替え版ではそうしたのだろう。

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ずいぶん
長くなってしまったが
これだけ書いても、
ふたりの演技についても
素敵な音楽について
脇役について
カメラのロバート・サーティーズについても
全然、触れられなかった。

これらは
また
機会があったら書きます。

ぜひ
もう一度、観てください。
ほんとに
細かいシーンで発見がたくさん、ありますから。

ま、
有名なシーンで言えば
レッドフォードが
歯に血ノリを仕掛けるところ。
はっきりと描写されているけど
ラストを知らないで観ると
なにをやっているのか
ただの歯の手入れにしか見えないところとかね・・。

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