
「いつも心に太陽を」
ゲイのカップル、元水泳選手の青木と谷口の別れ際のセリフ
青木「・・・俺は忘れはしない。
あの第十八和歌山国体を。おまえから見守られて泳いでた俺を。俺は
誰よりも早く、
誰よりも強く、
ゴール坂に着くことが出来た。
早くゴール坂に着いて振り向きたかった。
お前から見守られながら、泳いでいた自分を確かめたかった。
泣くんじゃねえ!!
もう、お前は俺に愛されることを怯えなくていいんだよ。
お前はもう、
俺を愛おしく思う気持に恐れなくていいんだ。
いままで、お前は、俺のためにつましく控え目に、
誰からも後ろ指さされることのないように化粧ひとつさえしようとはしなかったけど、
これからはもうひとりで生きていかななければいけないんだから、
爪にマニキュアも塗って、
唇にルージュをひいて、
瞼に長いつけまつげをつけて、
綺麗なドレスを着て街を歩くんだよ。
もしかしたら、
そんなおまえと通りですれ違って、
頬を染めてうつむいてしまう男もいるかもしれないし、
もしかしたら、セクシーだぜって振り向いて、
お前に声をかけてくれる男もいるかもしれない。
お前は心優しい男だから、
そんな内気な、
女に声をかけられないような男たちのひとりひとりに、
そのお前のかわいらしいお尻を差し出してやるんだろうね。
それを思うと、俺の胸は張り裂けそうなんだ・・」
谷口「(あふれる涙を拭おうともせず)俺は静かに泳いだよ。
お前の後ろから、
泳ぐことを誇り高く思っていたよ。
そして、これだけはこの俺を見くびらないでほしいと思うんだ。
たとえ俺がどんなに寂しさに苛まれようとも、
この俺は街角で客を引き、誰かれなく尻を突き出すような真似だけは、けしてしないということを。
だって俺は、
これからもお前を愛したことを誇りに思っていたいんだもの」
「蒲田行進曲」
ヤス「俺?・・・・何かあるか? 何かあるか、俺」
小夏「だから、あんたが、あたしのこと、どう思っているか知りたいのよ」
ヤス「ぶっ叩かれて六百円。スッ飛ばされて八百円。なにかあるか、俺に」
小夏「これからのあたしたちの生活を、あんたがどういう風に考えているのか教えてほしいの」
ヤス「一体、俺は何なんだ、どういう人間なんだ」
小夏「そういうふうにね、臨月の今になってそういうことを言うなら、私がはじめにこの部屋に来た時に、三か月か四か月とかに言ってくれれば、あたしだって処理できたのに、それをあんたが「子供好きです」とか「俺の子として育てていいか」とか言うからさ。私だって腰をすえて真剣に考えよう、そう思っちゃったんじゃない。
好きなのよ。あんたのこと好きになっちゃったのよ。どうしたらいいの、教えてよ。
うちの母のことあやまります。すいませんでした。
うちの父もご無礼しました。勘弁してください。
人吉のお義母さんに親孝行します。
わたし、どうすればいいわけ?
どうしたらあんたの気に済むわけ?
こっち向いてよ。聞いてよ。
お義母さんに「いい嫁じゃ、もうけもんだ」って言われちゃったの。
どうすればいいの、あたし。
どうすれば、あんたの気に済むわけ?
はじめてなのよ、そんなこと言われたの。
うれしかったのよ、ちゃんとやろうと思ったのよ。
教えてよ。言う通りにするよ!!」
小夏「できあがったらしいね、階段が。パトカーと救急車が出揃ったようだね。
スタジオの前に香典が山積みにされてるよ。
止めないね、止めゃしないよ。
振り向いちゃだめだよ。真ん中に立つんだよ。
だいじょうぶだよ。ぶっ叩かれて600円、けっ飛ばされて800円。
そんなはした金じゃ、子供はあたしの腹の中から出て来れないもんね。
あんたが階段落ちをやって、こんなぶ厚い札束を口にくわえて帰ってくるのを、あたし病院で待っているからね。こんだけ腹の中でいたぶられた赤ちゃんだもん。誰かが死ぬ覚悟で稼いできた金でなきゃ、親父の名乗り上げてくれなきゃ、出てこれないよ、やりきれなくてネ・・
あたしは、あんたに押しつけられたんじゃないよ。
あんたに惚れて一緒になったんだよ」
ヤス「あいよ」