
沼は生まれ
やがて淀み
その懐に
築き続けた宇宙の
終焉には
自らの足を持ち
動き始める。
ここに来る途中
妙なものに会ってな
それを捕獲したい
・・・妙なモノ?
ああ、聴いたことないか。
液状の蟲のなれの果て
生き沼だ
その山脈を
超える間
よく沼を見た
しかし
迂回をし
後々、山腹から見返ると
決まって沼は、
跡形もなく消えているのだ・・。
そしてまたひとつ山を越えたころに
次なる沼が姿を現す
狐狸にでも化かされてんのかね
お前
この前の沼にいたよな。
この山は
どこか抜け道でもあるのか
一瞬
目を疑った
その髪の異様な緑さだ。
(あお)
沼の水で
芯まで染めたような
・・・・そのままいくと何かあるの?
この沼・・・普通の沼じゃないよな?
・・・・・この沼は旅してるの。
何度も地中に潜ったり浮いたりしながら
あなたと同じように
この山を超えようとしているみたい
蟲かね・・
ほおっ
それはすごい生き沼か
で、あんたも一緒に移動してきてるわけ
何でまた・・・
蟲の起こす現象というのは
どれも奇妙でな
たとえば
水蟲ってやつで
すいこ
液状の蟲がいるんだが、
無色透明の液体だが
生きている。
古い水脈の水に好んで棲み
池や井戸に留まることもある
水と誤り
水湖を飲み続けると
常に水に触れていないと
呼吸ができなくなり
身体が透けはじめる
それを放っておくと
液状化して流れだしてしまう
そして当の蟲は
ある日突然消滅している。
泳いでたの
増水して荒れ狂う
河の底
浮き上がることも
出来ずにいた
そこに緑色の巨大なものが
激流の底を
悠然と
遡ってきた
さかのぼ
気がつくと
山の沼の淵だった
・・・・・そのときには
もう髪はこの色に
染まっていたの
緑の髪の少女、いお
荒れ狂う河を鎮めるために
村を救うために
河に身を投げ
水神の生贄になった少女
この晴れ着を
着ておゆき
せめて・・・
たぶん・・・もう
私は一度
死んでいるのよ
でも沼が
生きていていいと言ってくれた
だから私にとって
この沼は
唯一の居場所なの・・・
やがて
沼は
地下に潜っていった
私
この沼の一部になるの
待ておい、それがどういうことかわかっているのか!!
いおは
沼と一緒に消えた・・。
沼は海に・・。
海に向かう沼か
まるで死に場所を求めるように
海に来るんだと・・。
かって河だった場所は
地中に埋もれても
地下水の通う河となるんだ
あの沼は
かつてのこの河を記憶していて
辿っているのかもしれない
海へ出ちまったら手が出せない
人を集めてくれないか
河口付近に網を張る・・。
なぜそうしてまで助けたい?
娘が何としてでも生きたいと
言ったのならわかる。
だが
娘は沼の一部になることを
望んでいたんだろ・・・
蟲の側に行くということは
普通に死ぬこととは違う
蟲とは
生と死の間にある「モノ」だ
「者」のようで「物」でもある
それは一度きりの瞬間の死より
想像を絶する修羅だと思わんか・・・
少しずつ
ひとの心は磨減される
そんなところに行こうというのに
あいつは
大事そうに晴れ着を着ていた
それ以上の
酷な事情ってのは
そうあるもんじゃないだろう・・
やがて
網をすり抜け
海に出た生き沼は
そのまま
死に絶えた・・・
お前
生きていたかったんだろ・・・?