緑や水
生命を呼ぶ
体質とでもいうか
そういうものを
持つ人間が
稀にいる
五百蔵(いおらい)しんら
その少年が
ものの形を
左手で象(かたど)ると
それは既在の生物でなくとも
生命を持ち動き出す。
しかし
新たな生物を生み出すなど
人のしてよい所業ではない。
しんらは
左手でものを書くことを
ばあちゃんから禁じられた。
その性質は
あまりにも
人智を離れている。
ばあちゃんは
しんらに
家を出て人里に出てはいけいなといった。
しんらの眼には
昔から
蟲が見えた。
蟲
命の原生体(そのもの)に近いものたち
そのものに近いだけあって
それらの形や存在が
あいまい
そういう五感で
感知しにくいものを感じるとき
補っているものを
「妖質」という
それは多少の差こそあれ
誰もが持つ
普段は必要のない能力ゆえに
眠らせておくことが多いし
なにかのきっかけで操れるようになったり
逆に
忘れたりする
4年前になくなった
しんらのばあちゃんには
見えなかった。
しんらの屋敷にいる蟲
名前は
廉子(レンズ)
亡くなったしんらのおばあちゃん
でも
彼女はしんらには見えない。
なぜなら
彼女は半分だけの蟲だから
廉子ばあちゃんが持っている半欠けの緑の盃
どうして廉子ばあちゃんは
半分だけの蟲となったのか・・。
しんらの能力によって
廉子ばあちゃんは
しんらの前に姿を見せることができるという・・・
特異な能力
異型
それを持つ者の孤独
見守るもの
見届けるもの
人知れず存在するものが
この世にはある。
どんな時代だってある・・
それは命に最も近い
蟲
と呼ぶ・・・。