113 「ビデオドローム」 起こってしまったという事実の前に、合理性など意味がない | ササポンのブログ

ササポンのブログ

映画、音楽、アニメにドラマ
そしてサントラなブログ
ひとを観ていないものを観ます

ササポンのブログ


実は、直前まで、今夜は
「アメリ」を書こうと画像を探していましたが
なぜか
書こうとしていた論点が
あまり
魅力的じゃない・・と気がついて
それなら
以前に画像だけを探しておいて
同じように書くのを見送った
「ビデオドローム」を
今夜は書こうと思ったわけです。

「アメリ」から「ビデオドローム」・・・。
これが
ぼくの嗜好回路です。
ササポンのブログ
ササポンのブログ

トロントのケーブルTV局シヴィックTVでは、
セックスと暴力を売り物にしたセンセーショナルな番組を放映していた。
若き野心家の社長のマックス(ジェームズ・ウッズ)は、
ハーラン(ピーター・ドヴォースキー)のキャッチしたSMヴィデオを見る。

冒頭に出てくる「サムライドリーム」というたるいポルノ映画
(もちろんクローネンバーグが撮ったもの)
これを観て、
マックスは生ぬるいという
もっと刺激がほしいという。

この気持ち
僕は実感としてわかる。

昔、フリーライターをしていたときに
AVビデオを月に50本観て
どんな内容だったか書くという仕事をしたことがある。

これはもう苦痛でしかなかった。
好みじゃない女の子のAVなんか
おもしろいわけがない。
内容だって似たり寄ったりだ。
退屈の極みのこの仕事・・。

もちろん
興奮などするわけがなく
ひたすらに早送りして
適当な文章を書いていたが
ある日
とんでもないビデオの刺激が僕を襲った・・。
ササポンのブログ
ササポンのブログ

汚い話です。
なにかを食べながら読んでいるかた、
堆肥・・いや退避してください。

そのビデオは
ただ、もうひたすらに
女性が
放尿、排便しているビデオなのだ。
それも
ただの排泄ではない。
物凄い音をたてるのだ。
観ていて、
とてもじゃないが人間業とは思えない・・。
あんなことしたら
腸がプチ切れるぞ・・。
そして
放出しながら
女性が「ぎゃあああああ」と叫んでいるのだ。

僕は
そのビデオ観て
ひたすらに笑った。
なぜか笑った。ゲラゲラ笑った。

そして考えた。
これを観て興奮しているひとがいるんだ・・と。
つまりがこれが刺激と快楽の行き果てなんだ・・と。
ササポンのブログ
ササポンのブログ

普通の刺激に慣れきったマックスが観たSMビデオ。
やがては
その映像を観ているマックス自身が
ありえない魅惑的で
暴力的な幻想に
取り憑かれていく・・。

この映画が
とても予見に満ちていることは
いまさら言うまでもない。

まずこの映画に出てくる浮浪者に
TVを見せて社会とのつながりを持たせる目的の施設というのがすごい。
これは
もろネットカフェ、およびネット難民ではないか・・。

TVの画面を観ることによって社会と繋がる。
それは日々、インターネットを観て
情報を仕入れる僕たちの生活そのものである。

そして
この映画の一番、恐ろしい予見は
TV画面の刺激による
精神と肉体の変容である。
ササポンのブログ
ササポンのブログ

精神の歪みによって
肉体が変容していく・・。

初期のクローネンバーグが
得意とした世界観である。

オブリヴィオン教授が製作した
禁断のビデオを観ていたマックスに
激しい幻想が襲いかかる。

腹が女陰部のように裂ける。
そこに
手に持った拳銃を突っ込むと
中にすっぽりと入って
無くなってしまう。

このシーンは何度見ても
よくわからん・・けどおもろい。
元々
なんでマックスは裸体に
ホルスターをつけて
拳銃を持ったまま
ビデオ、観てんだろう?

さらに
腹の中に
拳銃が入ってしまったのに驚いて
ソファーの下を探すというのが
おもしろい。
ササポンのブログ
ササポンのブログ
ササポンのブログ

ビデオを観ることによって
脳に腫瘍ができて幻覚を観る。

もうなんの科学的根拠もない・・

ただ
初期のクローネンバーグは
その強引な、ありえない状況を
独特の世界観で
構築してしまう。

と、いうか
合理的な根拠などどうでもいいのだ。
それが
起こってしまえば
それが真実であるんだ。

脇の下からペニス状の吸血突起が出る。
蠅と人間が融合してゴールドブルームが北野武みたいに首をカクカクさせる。
怒りの形が体外に、子供の形で生み出される。

合理的になんか説明できるわけがない。
それが
起こったから真実である。

その強引な展開は
クローネンバーグの作家性を
映画という形で表現するために
必要であり、
それをするために
合理性が邪魔であれば
あっさりと排除されてしまう。

ゆえに
この映画のストーリーも合理性を失い
クローネンバーグの私的幻影世界の中で
彷徨い、暴発してしまう・・。
ササポンのブログ
ササポンのブログ
ササポンのブログ

悲しいかな
この映画はコケるどころか
ビデオもあまり作られなかったので
クローネンバーグは
自分の映画がこの世から消える恐怖を
感じたそうだ。

幸いなるかな
半永遠保存のDVDの出現によって
この映画が、
消えることはなくなってひと安心だが・・。

それにしても
「リング」が出てきたときに
なぜ
この映画の名前が取り上げられなかったのだろう・・。

まあ、パクりとは言わないが
ビデオを観ることによって死ぬ・・という根拠のない世界を
それが起こったのであるから
真実である・・という強引さで展開させるところなど
その根本的な構成は
完全にこの映画からのいただきである。

それほど
この映画は誰も観ていないということか・・

僕は
この映画を
画像の悪い海賊版で観ました。
きっとそれはこの映画の一番正しい鑑賞の仕方でしよう。
ビデオデッキから
そのテープを取りだす時・・
やはり一瞬・・・思いました。
呼吸して歪むんじゃないかと・・・。
ササポンのブログ
ササポンのブログ
ササポンのブログ


おまけ画像です
若いなあ・・クローネンバーグ・・
ササポンのブログ