
地味である。
とても、とても地味な映画であります。
監督は、「ダーティハリー」のドン・シーゲル
主演は、ウォルター・マッソー
「マンハッタン無宿」「真昼の死闘」「ダーティハリー」「白い肌の異常な夜」と
イーストウッドとのコンビの作品が続いたドン・シーゲルが
久しぶりに、彼以外の役者と組んだ作品。
製作も兼ねている。
前作の「白い肌の異常な夜」
この作品の後に撮る「ラスト・シューティスト」「アルカトラズからの脱出」などを観ると
どうもドン・シーゲルは
派手なアクションとは違う形での
活劇を作りたがっているように見える。
元々、ノン・アクションの「白い肌の異常な夜」は別として
他の作品は
派手に撮ろうと思えばいくらでもできた作品であり、
ドン・シーゲルにはそれが可能であったはずである。
ところが
まるでそれを封印するかのように
地味なテンションで撮っている。
この映画、
確かに強盗のシーンや、その後のカーチェイスなど
さすがといえるカッティングで、
ワクワクさせる。
曲乗り飛行のパイロットから
農薬の空中散布屋に転向したチャーリー・バーリック(ウォルター・マッソー)は、
実は銀行強盗だった。
とはいっても狙う銀行は小物ばかりで、
かっさらえる金額もせいぜい1万から2万ドルどまり、
しかし頭のいいチャーリーはそれに満足していた。
仕事は楽だし、追求もそう厳しくはない。3,4週間もたてばほとぼりもさめてしまう。
だからこの日、若い妻ナーディン、
相棒のハーマン(アンディ・ロビンソン)、
それからもう1人の手下を連れて小さな西部の町トレス・クルーセルの銀行を襲撃しに行った時も、
別にいつもと変わったことが起きるとは思っていなかった。
が、予想は大はずれ。逃亡用の車で待っていた妻のナーディンが警官と撃ち合い、
相手を倒し彼女も重傷を追うという事態にまで発展した。
チャーリーとハーマンが何とか逃げのび、助かる見込みがないナーディンを車に残したまま火を放った。
まず銀行の内部で進行する強盗と
外での警官の動きを
モンタージュさせるところなど、
もうサスペンス演出のお手本のようなものだ。
外の車で待っているチャーリーの奥さんがいい。
いざとなると、
至近距離から、
警官の眉間をぶちぬく度胸!!
とてもいい。素敵だ。
そして警官たちとのカーチェイス!!
見事としかいいようのない
その映像処理、
派手なだけで全然、心躍らない凡庸監督は、
学ばなくてもいいからパクッて
自分の作品を観れるものにしてほしい。
ただ
その派手なオープニングから
一転して
物語は
驚くほど地味で渋い展開となる。
盗んだ想定以上のお金に
全然喜ばないチャーリー。
すぐにマフィアの隠し金と気づく。
ここで相棒に若いハーマン(アンディ・ロビンソン)が反発するのは
物語のテクニックである。
つまりは
思わぬ大金を手にした若い普通の男を配することで
チャーリーの冷静さ、頭のよさを際立たせた。
とにかくこのチャーリーという男の冷静さは驚く。
歯の治療をした医者に潜入しての小細工は
先々まで考えての行動で驚く。
このシーンは、
のちの伏線になるのだが
必要以上に説明的になっていない。
正直
わかんないひとには
なにをしているのかわからないぐらい
説明的なシーンを排除している。
さて金を取られたマフィアのボスに雇われて
チャーリーたちを追いかける殺し屋のモリー(ジョー・ドン・ベイカー)。
こいつがまた地味でいい!!
娼館に寝泊まりしているのに女は抱かない、
強迫的に声を荒げることもない
ただもう最小限度の暴力で
効果的に相手を追い詰める。
殺し屋の鏡のような男である。
着々と逃亡の準備を整えるチャーリーと
着々とチャーリーたちを追い詰めるモリー。
隠し金の存在がFBIにばれそうになってきて焦るマフィアのボス
それらの行動が
本当に最低限だけ
必要なシーンだけで描かれる。
まったく無駄なシーンがない。
つまり
どのシーンが抜けてもこの映画は成り立たないほど
きっちりと描かれる。
僕の大好きな田中小実昌さんが
本当に良く出来たB級映画とは
無駄なシーンがまったくない
スター俳優が意味もなくヨットにのっているシーンがないこと・・と書いています。
そういう意味では
これはもうB級映画のお手本のような映画であります。
田中小実昌さんが訳すような
出来のいいクライムノベルズの好きな人は
きっと身震いするような映画だと思います。
この映画の主演を
イーストウッドではなく
ウォルターマッソーにしたのも
明らかに
この映画の
そういう特色を踏まえた上だと思う。
一見するとひとのいい、ちょっとぼんやりしている
ウォルターマッソーが
実は一番、したたかでタフだという
これも
いかにも出来のいいクライムノベルズ風ではないか。
あと個人的には
強烈な「ダーティハリー」のサソリ役で
実生活でも被害を被ったアンディ・ロビンソンが
共演者として出ているのがやっぱりうれしい。
またボコボコに殴られて血まみれになるけど・・。