
心、ここにあらず・・という言葉がある。
それなら心はいつもは、
ここにあるらしい。
ここの
どこにあるのでしようか?
心は?
「普通の人々」
ロバートレッドフォード監督デビュー作
ドナルド・サザーランド、メアリー・タイラー・ムーア、ジャド・ハーシュ、ティモシー・ハットン
カルヴィン・ジャレット(ドナルド・サザーランド)は
シカゴに住む有能な弁護士。
妻ベス(メアリー・タイラー・ムーア)とは結婚して21年になる。
息子コンラッド(ティモシー・ハットン)は17歳、
ハイスクールに通い聖歌隊のメンバーでもある。
彼は時々悪夢にうなされ、父のすすめで精神科医バーガー(ジャド・ハーシュ)の治療を受けている。
彼の病気は兄バックの事故死が原因のようだった。
秀才でスポーツ万能だったバックは皆に愛されていたが
コンラッドと2人でボートで遠出した際にボートが転覆しコンラッドだけが助かったのだった。
そして、その直後自殺をはかったコンラッド。
バックを溺愛していたベスは、時々コンラッドを見て凍ったように口を閉ざす。
息子コンラッドの残したフレンチトーストを
何の躊躇もなく流しに、押しつけるように
まるで汚物のように捨てる母親のベス。
強烈なシーンだ。
絶対に、母親は息子を愛さなくてはならないのか?
ベスは、コンラッドを許せない。
ひとりだけ生き残ったコンラッドを許せない。
だから
コンラッドも自分を許せない。
母親に許されない自分を
許せるような息子がいるものか!!
コンラッドは
自殺をしようとした。
ここにあるはずの心が
自分を苦しめる。
なぜ?
父親のカルヴィンは希望を持っていた。
きっと心の中では
妻のベスも
コンラッドを愛していると・・。
家庭に希望を持てなくて
どうして父親などできるものか・・。
絶望を
微かな希望で押さえつけながら
カルヴィンは息子の心の修復に助力する。
やがて
友だちの自殺によって
コンラッドの心が
爆発する。
精神科医は
言う。
「自分を許すんだ。お前は悪くないんだ」
僕が手を放したんじゃないんだ。
兄さんが…兄さんが手を・・。
ひとは、
自分が許せないとき
なぜ
生き続けているのか?
わかるひとなどいない。
精神科医の眼は冷静である。
抱き合っていても
冷静である。
心を救うには
冷静でいなくてはならない。
冷たく静かでなければ
心は救えない。
やがて
自分を許す努力をはじめたコンラッドは
母親におやすみのキスをした
しかし
ベスの体には
喜びはなかった
戸惑いと硬直しかなかった。
それを観たカルヴィンははっきりと悟った。
この女は
何度も抱き合って、愛し合った
この女は
コンラッドに対する愛を
息子に対する愛を
ひとかけらも持っていない・・・と。
地獄のような
心の苦しみに
打ち勝とうとしている息子を
愛することができない・・。
自分が産んだ子なのに・・。
夫は、
自分の妻に対して
人間的な、完全な絶望を
悟った。
それは
もう父親がいて
母親がいて
息子がいるという
普通の人々の、
普通の家庭の崩壊だった。
ドナルド・サザーランドが
本当にどこにでもいる父親だった。
メアリー・タイラー・ムーアもどこにでもいる母であり女。
ティモシー・ハットンも、どこにでもいる青年だった。
そういうふうに演出しなくてはならなかった。
それが
レッドフォード監督にはわかっていた。
心、ここにあらず。
じゃ、心はどこに?
それは
答えがない問いだけど
問い続けなくてはいけない
問い。