2歳(現在の1歳)にJRAが500万で購入した抽せん馬である。
抽選馬とは
生産者保護のために、
売れ残りそうになった馬を
一括で購入。
馬主に抽選に破格値で売るという
まあ、走ってくれればもうけもの。
走らなくてもしゃうがないと・・そういう馬。

けして美人とはいいがたく
おまけに
物凄く気性が荒い。
とにかく先頭を走っていなければ気が済まない性格。
こんな気性も
闘争心となれば
強く速い馬となる。
おまけに彼女の背中には王子様がいた。
松永幹夫。
武豊とともに
競馬場の女性の人気を集めた
元祖アイドル騎手。
最後の天皇賞で
牝馬のヘブンリーロマンスで優勝。
天皇皇后に一礼した男。
イソノルーブルは
レースで
王子様を背に
同世代の良血牝馬を
徹底的に打ち負かしていった。
もう1頭。
シスタートウショウ。
生れながらの良血。
人間でいえば
超がつくお嬢様。
その価値は
恐らく億の単位を超える。
この馬は
おっとりと後ろから走る。
そして
直線だけで
前の馬をすべて抜き去るという
まったくもって
お嬢様らしい強さで勝ち上がる。
この2頭が、
対決した桜花賞で事件は起こった。
桜の下で、
一番人気のイソノルーブルが狂乱した・・。
ご存知かと思うが馬というのは、
蹄鉄という靴を、
足に打ち付ける。
これがなければ
しっかり地面を蹴ることができず
とても競争などできない。
ところがイソノルーブルは、
桜の下で、
突然暴れ
この靴を脱ぎ棄て、
けして履こうとはしなかった。
それどころか足すら触らせなかった・・。
そのまま彼女は、
裸足のまま走り、5着に敗れた・・。
優勝したのは
シスタートウショウ。
イソノルーブルには
容赦ない罵声が浴びせられた。
夢だ、ロマンだと言いながら
所詮
競馬はギャンブルだ。
勝てば賞賛の嵐・・。負ければ罵倒が浴びせられる。
しょせんは
500万円の馬・・。
しょせんは
血の卑しい馬・・
その夜、
松永幹夫騎手は、
イソノルーブルの馬房の前で
泣き明かした・・。
自分のせいだと
彼女に謝った・・。
そして迎えた
優駿牝馬、オークス。
距離2400メートル
男馬でも過酷なこの距離・・。
おまけに
荒れ果てた気性・・。
さらに逃げ馬にとって不利な大外20番枠・・。
イソノルーブルは4番目に
人気を落とした。
一番人気は
もちろん
シスタートウショウ・・。
競馬はロマンだなんて思いません。
ドラマだとも思いません。
ターフで、
足を折って死んでいった馬。
馬場に叩きつけられ、馬に蹴られて
亡くなった若い騎手たち・・。
とてもロマンだなんて
甘っちょろいことは、言えません
ただ
それだから、
その姿に本気で泣ける。
だから
僕は
いやな仕事で稼いだお金を賭けて
本気で
競馬を観ます。