同乗研修指導員の田村さんはキノコ狩りが趣味らしい。

田村さんから出勤後の手続きを一通り教わった。

順番は呼気検査、本日乗車する車割り当て確認、通勤車と割り当て車両の入れ替え、車の点検(エンジンルーム、ライト、方向指示器、車両外周傷確認)、メーター、タブレット等の起動、点検後の乗務員証受領と大体こんな流れであった。

初日の研修は田村さんが運転し、私は助手席に座り営業エリアの拠点を一通り周回してみるという内容であった。

初老の田村さんは尿意をもよおす頻度が高いらしく、30分に一回はトイレのある拠点で小便とたばこ休憩をしていた。

田村さん曰く、長く続けるにはある程度息抜きが必要だと言っていた。

午後になって隣町へガスを入れに行くとのことだったが、途中、タブレットで配車中断し忘れたらしく配車指示が入ってしまった。

田村さんは「しょうがねえな、ひとり乗せてからガス入れに行くか」と迎車先に向かった。

迎車先は、「〇〇マンションの2階伺う」という指示であった。

 

常連のお客様らしく、田村さんは「車いすのお客さんだよ、体が大きい人なので乗車の援助が大変なんだよと言っていた。」

田村さんはお客様をお乗せして「すいません、今日は研修中なので一人助手席に座っております」とお客さんに説明した。

お客さんは、最寄りの郵便局に寄ってから、主要駅に送ってほしいとのことだった。

田村さんは郵便局に立ち寄りいったんお客様をおろし、郵便局の駐車場に停車するため車をバックさせたら、

駐車場わきのポールにごつんとぶつけてしまった。ぶつけたポールの外傷はわからなかったが、車両のテールランプは割れてしまっていた。

田村さんは「まいったなあ、なんかこのお客さんの配車、いやな予感がしたんだよなあ。本当はこの時、警察を呼んで事故処理をしなければならないんだけど、お客さんを駅に送った後、またここに戻って事故処理するか」と

しょんぼりつぶやいた。

ぶつけたことを知らないお客さんは、田村さんの意気消沈ぶりにつられ、それまで饒舌だったお客さんもおとなしくなってしまった。

その後、田村さんは郵便局最寄り交番にいき、警察官に事故状況を説明していた。

私は助手席に乗ったまま、交番での手続きを一時間待っていた。

私は「なんかさえない仕事だなあ」他人事のように傍観していた。

手続き後は事務所に事故報告をしなければならないようで、一旦研修中断し事務所に戻った。

田村さんは事務所で、運行管理者にいろいろ叱責を受けたり始末書のようなものを欠かされたり、完全に意気消沈しているようだった。

田村さんの事務所手続きを終えた後、私も運行管理者に呼び出され、「今回の事故は何が問題だったかわかりますか」と厳しい表情で尋問され、いろいろ説明を受けた後、「今回は反面教師として、絶対事故は起こさないでください。今日の研修も中断します」と言われ、研修が中断になってしまった。

午前中の指導で私に対してもベテランらしく饒舌だった田村さんは、あまりにもしょんぼりしていたので、

さすがにかわいそうになった。この程度の事故でも犯罪者のような扱いなのだなと、この先の行く末に不安を感じた一日だった。