長い手足をしなやかにくねらせ、カメラにポーズを決めていく。
「直感で行動する点では人間よりも野生動物に近いかも」と本人。
全米チャート首位を獲得した初アルバムのタイトルは、
ずばり「アニマル」だ。
昨年、シングル「ティック・トック」でデビューし、いきなり
9週連続でチャート首位を記録。
ポップス界のど真ん中に、華々しく乗り込んだ。
ラップのような歯切れのよい歌声が、はやりのエレクトリックな
ダンスポップにのって痛快に駆け抜ける。
「人生を、若さを、自分らしく楽しんで、幸せになる。若い人たちが
自分を解放するきっかけになるような、ポジティブなメッセージを伝えている」
それは、日本でうけているような「頑張ろうソング」ではない。
「ティック・トック」では、ウイスキーで歯を磨いて出かけ、
警察官に追い出されるまで飲んで騒ごう、と歌う。
男、酒、音楽を貪欲(どんよく)に享受しようという快楽主義に
貫かれたパーティーソングなのだ。
良識ある大人は、まゆをひそめるかもしれない。
だが、富の多寡で幸福をはかるような、世間の価値観こそが
ばかげている……。
そんな反抗心が脈を打っている。
プロのミュージシャンになるため、17歳で学校をやめ、
ブリトニー・スピアーズのバックコーラスなど、
下積み生活が5年ほど続いた。
「ウエートレスや電話勧誘の仕事もしながらで、無一文に
近いような時もあった」と振り返る。
窮状を笑い飛ばそうと、アーティスト名の「S」の一文字を、
ドルマークの「$」に変えた。
「お金がすべてみたいなセレブもいるけど、私は高いカバンや靴を
持っていなくても、おしゃれができるし、人生を楽しめる」
下品だ、俗悪だ。
そんな批判はつきまとうだろう。
でも、男たちがあけすけにしても許される欲望を、
なぜ女の子が表に出してはいけないのか。
「男性がすることを、女性がしてもいいじゃない。素直に自己表現することは
とても大切なこと。女性もそうすべきだと思う。自分の音楽が、
みんなを勇気づけられたらいい」
強く野心的な女性スターが席巻する昨今のポップス界に、
またひとり新星が加わった。
◇
KE$HA 1987年、米ロサンゼル生まれ。
2009年にフロー・ライダーのヒット曲「ライト・ラウンド」に
ボーカルで参加。
同年、シングル「ティック・トック」でデビュー。
初アルバム「アニマル」の日本盤が今月発売された。