秋は出会いと別れの季節・・・。
私の前からもかわいい男の子がひとり姿を消すことになった。

彼は会社の後輩。グループ会社から一年前にうちに出向してきたのだが、うちに転籍はせずに
一人でベンチャービジネスを立ち上げると言う。つまり、「よっ、若社長になるのである。

エネルギッシュで義理人情に厚い男で、何かと業績数字に追われる営業部門においては貴重な存在だった。
私としては慰留を求めたかったが彼の決心は固かった。そうなると、彼の門出を華々しく祝わねばならない。
てなことで、先週行きつけの新橋の焼き鳥屋にて、二人だけの送別会を執り行った。

さて、今回は一通り彼の辞職の決心や新しい事業の話を聞き、私も個人的に非常に刺激を受けた。

女も三十路を迎えると色々な選択肢を迫られるものなのだ。
彼の決心を聞き、自分がちょっとした人生の岐路に立たされていることを改めて私は実感させられた。


ちなみに人懐こい彼と私はこれまでもよくサシ呑みをしていた。
仕事の話以外にも彼が思いを寄せている女子への恋愛相談にも乗っていた。
彼は仕事面ではゴリ押しタイプなのだが、好きな子の前では初心なボーイだったのだ。

彼が思いを寄せていた意中の彼女はこの秋結婚する。・・・しかし相手は彼ではない
傷心であろう彼の心中を、私は酒の勢いで聞いてみると
「いや、もう吹っ切れましたよ。それよりMさん、僕は女性の気持ちが分からないのですが・・・。
実は彼女、僕に婚約を告げたあとに僕をホテルに誘ったんです」

私は彼以上に初心っぽいその女子を想像した。そんなアグレッシブな行動を起こすタイプには見えない。
いや、それ以上になぜに自分がフッた男を誘うのか。しかも嫁ぐ直前に。

彼は戸惑いながらも、結局は本能やら色んな思惑に負けて彼女をいただいてしまった。
が、いい思い出になるわけもなく、
むしろ彼にとっては「消したい過去」という苦い経験になってしまったようだ。

彼女の真意は分からない。
自分の捨てようとしているものの価値を確かめたかったのか、
はたまた自分が選ぼうとしているものの価値を確かめるために彼を使っただけなのか。

女は恋の始まりにはロマンを求めるくせに、恋の最後にはエゴを押し通す。
そんな女の残酷さの罠に嵌った彼に対しておセンチな気分に浸るM先輩の目が覚める発言が次に控えていた。

「・・・そんなこんなで、僕、週末にAV男優のバイトをやっていたワケです」

そやねえ。キミの持ってる法務の知識も活かせるし、日本の発展のために貢献できるええバイトやん
って・・・はぁ!?活かせるかい!!てか、そんなこんなってどないやねん!トートツすぎるわい。

彼曰く、自分自身の価値を自問自答した挙句、なぜかその酸っぱいバイトをするという結論に着地したらしい。

「ど、ど、どんな感じなの?」
もう彼のその決心に至ったプロセスとか聞くのはメンドー臭くなって、
私はそのバイトの「中身」について身を乗り出して尋ねた。

彼は、バイトを始めた当初は修行として「カケ専門」に属したらしい。
つまり、女優さんを取り囲んで数人の男が自らの手で「もう一人のオレ様」を手塩にかけて育成し、
そしてオレ様が大きく成長した暁には外界に解き放つ・・・とまあそんな感じ。

そして衝撃的な一言が続いた。
「イチ出しに付き、一万五千円です」

・・・うーむ。高いのか安いのかようワカラン

が、彼はきっぱりと言った。
「自分と、自分から生み出されるモノがこんなに明確に価値換算される世界はありません。」

なお彼は他の駆け出し男優よりも集中力が優れていたようで、
最終的にはカケ専を卒業し「交わり仕事」もこなしたらしい。
芸名は「マンセー○○」。・・・うむ、バカっぽくて格好いいぞ。

失恋の傷心で揺らぐ自尊心と、事業を立ち上げようとする男の気概。冷静と情熱の狭間で(?)。
その狭間を繋ぐのが「竿氏(注:AV男優の隠語)」だったとは、はっきり言って理解不能。

が、いいのである。
彼は彼なりに納得できるロジックがあり、それによって解を得られたのだろう。
つまり過去の気持のドロドロは、1.5万×数回のオレ自身のドロドロと共にすっきり外に排出したようだった。

彼の指先が心なしかツヤツヤしているように見えた深夜の新橋。
鈍く光る街のネオンに負けないようなギラついた逞しい男に育ってほしいと思ったM先輩であった。