昨年の暮れのことだ。仲のいい男女数名で呑みに行く機会があった。

そのメンツの一人である男友達Aは、とある深刻な悩みを抱えていた。

それは、彼には愛しのハニーがいながらも酒の勢いから好きでもない女子と
「ヤってもうたーーーーー」
という、健全な性欲を所持する成人男子ならまあまあそんな珍しくないケースに遭遇していた。

彼としては「大人のあ・そ・び」という位置づけだったらしいのだが、
相手の女子はそのことがきっかけで一夜にして女房気取りの振る舞いをするようになったらしい。

例えば、その「ヤってもうた」現場は彼の一人暮らしの自宅だったのだが、
あくる朝目覚めると、女はすでに仕事に出かけたらしく、部屋にその姿はなかった。

彼は広々と使えるようになったベッドで「オレもまだまだ捨てたもんじゃねーな」
雄の勲章を噛み締めつつ、二度寝を堪能しようとした。

その時!異様な光景が目に入った。

それは彼の脱ぎ捨てたスーツのパンツだけがプレッサーが施され、
プレスびっしーの状態でハンガーに吊るされていたというのだ。

不穏な気配を感じ、彼は部屋の至るところに立ち込める妖気のようなもののチェックに入った。

・ シンクの中では途中まで洗い物がしてある(なぜかコップ類のみ洗浄)
・ 洗濯物のパンツだけがきれいに畳まれている(しかしTシャツやタオルは放置)
・ 「朝食に食べてネ♪今日も頑張るんだゾ♪」的な置手紙の上にポテトチップス(しかも彼の台所にあったやつ)

など、脈絡がないだけではなく「明日にかける橋」を彷彿とさせるアッピールぶりなのだ。

嫌な予感は的中し、一晩のビューチフルな思い出で終えたい彼の願望も虚しく、
彼女は彼に対して恋のファイヤーダンシングをおっぱじめてしまったらしい。

その飲み会の場の彼の言い分としては
「セーフだろ!だって、オレ彼女いるってこと言ったし。お互い一晩限りと割り切ってると思っていた」だった。

女子側からの反論、男子側からの同調(同情?)、そして全体に漂う「アホやな、お前」的な嘲笑。
白熱した議論の最中、これまでテーブルの隅で黙々と手酌で鏡月のボトルを呑んでいた女子が口を開いた。


「で」



「舐めたの?」



あまりの唐突な発言に場は一瞬静まり返った。

7ヶ国語を自在に操る私ですら、「Did it lick?」「얕보았어?」「舔?」「Il a léché?」「Ha leccato?」
「¿Se lamió?」「ナmeたNO!?」と、一瞬頭の中で小粋なミキシングラップが浮かんだほどだ。


当事者の彼はいちはやく正気に戻り
「な、・・・舐めて・・・ない」と何のボケも織り交ぜずにに答えた。

すると彼女は「じゃ、いいじゃん」とさらっと言ってのけて、また鏡月のボトルを傾けはじめた。


・・・え?いいの?
場の全員がそんな台詞を頭の中にHGP創英角ゴシックUBフォント54で浮かばせていたものの、
なんだか彼女は一人頷きすっきりした御様子だった。


さて、彼女のように、「これは許せない」という基準は人それぞれだ。
よく言われることだが、風俗嬢は本番はやっても唇へのキスは拒否(またはオプション)だったりする。

「浮気の定義」なんて言うと大仰だが、この手の話に明確な線引きはできないのである。

地球の裏側まで穴を掘るほど嫉妬深い女は、
彼氏が街中で別の女子をチラ見しただけでギロチンの刑

一方その彼氏の方は7つの海を支配するシンドバッド級の広~い心を持っちゃってるもんだから、
「外に出した場合はヤってない」とまるでデタラメな自分なりの法律で動いていたりもする。


結局、浮気の定義なんてものは自分の心が決めていることであり、
相手もまた同様に相手なりの定義で貴方の言動をオジャパメンするのだ。

・・・あ、間違えた。ジャッジメントするのだ。邪魔すんなよ!オジャパメン!!!

そういう男女間のドロドロに定義などのきっちりとした線引きを求める潔癖症の人は
ハナから浮気の香りがする行為なんてしなけりゃいい。

しておいてから「コレって浮気の部類に入るの?」という世間基準での保証を求めるのは潔くない。
そんなアホなPL法があったら、製造業者はみな3秒で倒産するだろう。

例えば「キスまではセーフ」が世の中基準だったら、自分の行為もセーフなのか。

そこに少しでも後ろめたい気分があるなら、それは貴方の中ですでに「アウト」だろうし、
「だって挨拶って感じじゃん♪」とエセ欧米人を気取るならば「セーフ」だろう。

大人だったら件の彼女のように自分のモノサシで判断してほしいもんである。


逆に彼の行為が世間的にはセーフであっても、
自分が「許せない」と思うのならば素直に意思表示すればいい。
全身の水分が沸騰するほど恋焦がれている相手ならば、どんな些細な行為だって許せないはずだ。

そんなところに「大人ぶって」世間基準で自分の感情を抑制するのはちっとも大人だとは思わない。
涙じょばじょば、鼻水タラタラ、ファンデーションはげはげで彼の行為をなじればいい。
恥ずかしくない。汚くない。美しいと思うぞ、おじさんは。

そんな情熱的な二人もいずれ水分がカラッカラに乾く馴れ合いの関係になり、
会話は減り、デートはラーメン屋ばかり、トイレのドアは開け放たれ、オナラを平気でブっ放つ。
しまいには「ちょっと変化つけるためにスワッピングでもしてみる!?」となるのが成れの果てだとしても。

つまりは、水分はあるうちに出しとけって話だ。


ちょいと鼻息が荒くなってしもうたが、
ここまで飲み屋で私に発想を膨らまさせた非常に示唆に富んだ発言をここに名言として認定しよう。


~浮気に新たなグローバルスタンダードを持ち込んだ女子の名言~
「舐めたの?」 (at鏡月のボトル独り占めして割り勘ってどーよ!?な某居酒屋)


最後にこれだけは言っておこう。
よく合コンの場などで場がくだけてくると、
男が女に「○○ちゃんってー、浮気ってしたことある?」的な質問を繰り出すことがある。

そんな時小首を傾げながらも上目遣いで
「浮気ってえー、どっからが浮気になるのカナあ?」

などと質問を質問で返してちょっと気の利いた人を気取りがちな女は、
浮気している「経験」も「自覚」もある確率500000%だ!

根拠もないくせに勢い余ってすごい数字を叩き出しちゃったわけだが、何かそんな気がしないだろうか。


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