とりあえず文献から。
男運のない女だった。
交際している男は、定職に就かず、借金取りに追われていた。たまに女に会いに来たかと思えば、目的は遊ぶ金欲しさである。女の蓄えを渡すよう、迫ってくると言う。
渡した金が、借金返済に充てられたのならまだ救いがあった。その日の内に、酒代や賭博で消えていく。
絵に描いたような"クズ"だった。
クズ男と付き合い始めてから、女の蓄えが無くなるまで、時間はかからなかった。女は、「もう金はない」と伝えた。クズ男は、稼いでこないと「別れる」と脅してきた。最低のクズ男だった。女のことを財布代わり程度にしか考えていなかった。
それでも、女は男を愛していた。
その理由を自分なりに理解していた。クズ男は、死んだ父親と似ていたのだ。父も、女を虐げるようなクズだった。記憶に残っているのは、父が母を殴っていた姿だ。
父は酒に溺れて死んだ。コキを使われた母は、旦那を失った悲しみで、心神を喪失した。心が壊れた母を見るに、心の底から父を愛していたのが分かった。
幼い頃の女に、母の気持ちは理解できなかった。あんなクズの父親、どこがよかったのだろうか? と。
女は成長し、痛感した。自分は母に似ている、と。今なら、母の気持ちも手に取るように分かる。
どうしようもない男を放っておけないのだ。クズであればあるほど、愛おしくなる。もし自分がいなくなったら、あのクズ男は生きていけない。自分の献身によって、あの男は生かされているーーそう思うと、女自身も生きている実感がわく。女自身も、さして取りえのある人間ではない。クズの男を支えることで、この世に自分が存在する理由を与えられる気がした。あのクズ男の傍には、自分の居場所が明確に存在する。
女は、金を工面するため、ロウソクを売り歩いた。それは、母親が父親の酒代を稼いだやり方と、まったく同じだった。しかし、ロウソクはまったく売れなかった。
男に伝えると、「能無し女」と罵られた。このままでは、男に捨てられてしまうだろう。
女も薄々わかっていた。男に必要なのは金づるであり、自分である必要性はない。むしろ相手を必要としていたのは、女の方だった。男に捨てられたら、自分は孤独になる。両親を幼い頃に亡くしていた女にとって、魔物に匹敵するほど孤独が恐ろしかった。男も女もお互い様だったと言えるだろう。女にしても、寂しさを紛らわせさえすれば、相手は誰でも良かったのかもしれない。
女は、それを知りながらも、男に捨てられる恐怖を抑えられない。
行き交う人々に声をかけ続けた。ロウソクはさっぱり売れなかった。
女の肩に、通行人の肩がぶつかった。売り物のロウソクが散らばった。
相手は謝るどころか、罵声を浴びせてきた。目障りだ、消えろ。 薄汚いゾーキン女。そして、売り物のロウソクを踏み潰し、去っていった。
ロウソクの破片を拾いながら、女は陰惨な気持ちになった。このまま惨めに死んでいくのだろうか。母親と同じように……
"帰る場所"のある人間が、うらやましくて疎ましかった。それは、単に家のある無しでなない。ーー心の拠り所のことだ。女は、人生でそれを得られたためしがなかった。
女は、ぶつかった男の後をつけていた。男の家を遠巻きに眺める。家族が幸せそうに暮らしていた。
そこから先は無意識だった。女はロウソクではなく、目の前の家に火をつけていた。燃えさかる炎を眺めていると、胸がすくような思いだった。燃え盛る炎は、中心が次第に色を帯び、絵が滲み上がってきた。
女が見ていたのは幻覚だ。大好きな恋人と幸せに暮らす情景。炎が消えるとその幻覚も消え去っていた。
その夜から、街では頻繁に火事が起きるようになった。犯人はもちろんロウソク売りの女だ。炎の幻覚にやみつきになっていたのだ。
凶悪な放火魔が現れたと、住人達の間で騒然となった。街の見回りが強化された。ある夜、放火の現場を目撃され、女は警吏に捕まった。
牢屋に入れられ、取り調べられる女。女は全てを白状した。恋人のために、金が必要だったこと。
しかし、取り調べをしていた街の高官は首をかしげた。そんな男は、どこを探しても存在しなかったのだ。
女の家を調べると、「男を象ったロウソク」だけがたくさん並んでいた。住人の記録を調べても存在しなかった。
男は、女の妄想だったのだ。女が頭に思い描いた架空の人物だった。孤独に耐えきれずに、脳内で作り上げた虚像。女は実体の無い男と交流するようになっていたのだ。
話を聞かされた女はとても信じられなかった。男の姿や声が、まだありありと思い出せるからだ。
仮に自分の頭がとっくにおかしくなっていたとして、いったいどこからが妄想で、どこからが現実だったというのか?真実が恐ろしすぎて、知りたくもなかった。
その時、彼女の目の前に不思議な光景が現れた。白い杯が宙に浮き、女に問いかけてきた。「犠牲を払えば願いを叶えてやろう」と。
これも幻覚だと言うのだろうか?
女は悟る。それが幻覚かどうかなんて関係ないではないか、と。大事なのは、自分が本物に思えるかどうかだ。現に、恋人との思い出は、胸の中に鮮明に残っている。自分から見た世界に、あの恋人は存在する。
女はそれを証明しようとした。
女は、まず自分をよく燃えるロウに変えた。そして自分の「頭」に火を放った。「そこ」に、あの恋人は住んでいるからだ。燃え上がる炎の中に、脳内の恋人の姿が現れた。
女は、見せてまわる。炎が生み出す幻覚を。周囲に"妄想の火の粉"を撒き散らしながらーー
自分は孤独じゃないと、自分自身に言い聞かせるようでもあった。
彼女が通った後には、燃えカスしか残らないと言われている。
女は、今も火を灯し続けている。
妄想の恋人を、この世界に投影させ続けるために。
毎度のことながら切ないですね。それにしても今回は長かったです笑 今回は文献に合わせて赤文字にしました。
さて、サキュバスについてですが、モーションは白雪姫に似ています。白雪姫の小人がロウソクに変わっています。弱点属性は予想通り 冷 でした。攻略法は白雪姫とほぼ同じです。小人たちから落として、小人を先に倒してあとは 女をちまちま倒すだけ。自分はそういう感じに倒しています。
本題が話すことが全然ありませんでした笑
文献が面白いので読んでみてください。打つのも大変だったので笑
長くなりました。今回はこの辺で。
ではでは(^ω^)ノシ
