日本語の燦めきは恋の燦めき | 空堀ホイホイ

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万葉集の恋うた (中経の文庫)/清川 妙

¥690
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いや~、ガラにもなく乙女な表紙の本を買ってしまった。

少しでも万葉集を身近に、ポップに感じられたら良いなぁ、と色々探してたら結局この本が良かったんですね。

表紙と挿絵は林静一さんという方で、ロッテのガムのイラストなんかを手がけられておられるようだ。

まア、兎に角乙女色満開ですな。

万葉集の恋歌にフォーカスを絞って、これでもかと恋心を説いてくる。

ひとつ気に入ったのを挙げさせてもいただきます。

朝寝髪

われは梳らじ愛しき

君が手枕

触れてしものを


(作者不詳)

いや~、いいですな~。

この歌は女性からの視点ですね。

一夜を共にし、朝、目覚め、髪が乱れていようとも、構わない。

愛する男の手枕に、この髪は触れていたい。



カ~ッラブラブ!

天才やな~。

こんな歌贈られたら男はイチコロでっせ。

色っぽいですな~。

艶っぽいですな~。


声に出して読むと更にこの歌の魅力が伝わりますねー。

頭の「朝寝髪」て。


それともう一句。

黒髪の

乱れも知らずうちふせば 

まづかきやりし

人ぞ恋ひしき


(和泉式部)

こちらもかなり色っぽいですな~。

艶っぽいですな~。


えー、ワタクシ、万葉集を変態的に解釈しておるわけでは御座いませんよ。

この日本語の響きの美しさ、そして、おおらかな恋心を情熱と儚さを携えて表現した当時の歌人達への尊敬と羨望。

そして、時を超え、現代の我々にも恋の喜び、切なさを伝え、生きる前向きな力を与えてくれる事への感謝感激。

素晴らしいです。


さて、これらとは打って変わって、悲しき挽歌も万葉集には収められています。

大伯皇女が、弟の亡き大津皇子へ捧げた歌。

うつそみの

人にある吾や明日よりは

二上山を

兄弟とわが見む



天武天皇の息子として期待されていた大津皇子は、腹違いの兄弟、後の持統天皇の息子の草壁皇子との権力闘争に敗れ、殺されてしまいます。

それを嘆いた大津皇子の実の姉、大伯皇女は二上山に葬られた弟に向けてこの歌を捧げます。

美しくも、悲痛なる運命を嘆いた兄弟愛。

今度、奈良に訪れた際にはワタクシも二上山に大津皇子の悲運を見るのでしょうか。

権力闘争に翻弄された女たちは時を超えた永遠の歌を残しました。

最後に矢張りこの人の歌が無くては万葉集は語れません。

三輪山を

しかも隠すか雲だにも

情あらなむ

隠さふべしや



(額田王)

天智天皇が都を奈良から大津に移す際に歌われていますが、彼女の私情も込められているようです。

昔の恋人、大海人皇子と過ごした三輪山。

雲よ、恋しい三輪山を隠さないでおくれ。


天才やな~。


日本の山紫水明な景色に、心情を重ねた歌。

この国の原風景に数多の文化は育まれたのですね。

だから日本語は燦めき続けるのでしょう。