先日、愛知県庁に視察に行ってきました。
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赤ちゃん縁組で虐待死を減らす取り組みを行われています。通称、「愛知方式」と呼ばれる特別養子縁組の方法があります。その詳細は後述しますが、愛知県の児童相談所では、諸事情により産みの親が育てることができない赤ちゃんを、特別養子縁組を前提とした里親委託によって、生後直後から養親の家庭で育てる取り組みを、かれこれ30年来、続けています。
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かつて一地方公務員の手で始まったこの前例のない取り組みですが、平成23年に厚生労働省で里親対策ガイドラインが出されたことにより、社会的に広く認知されることとなりました。
ちなみに、近年社会問題化している、養育能力に乏しい親による新生児や乳幼児の虐待死の事案において、全体の約4割が0歳児、しかもそのうちの4割が、生まれた日に命を絶たれたという惨状です。子供の福祉の問題を考えるとき、まずは失われなくてもいい命を一つでも救うことから考えていかなければなりません。
生まれてくる子供には罪はなく、また、親を選んで生まれて来ることも出来ません。老若男女を問わず、国民全体が貧しかった戦後間もない復興期ではないこの豊かな平成の世の中で、生まれによって、命そのものがスタートの段階で事実上選別されてしまっているこの現状を、決して是認することは出来ないのです。
そこで、家庭内での虐待から免れ、守られるべき命をまず救うという従来の保護施設による取り組みから更に前進させ、生みの親と暮らせない子を、施設ではなく里親家庭で育てることにより、恒久的な家族の愛情を知らずに施設で育った子供特有の反応性愛着障害というメンタルな病を克服し、施設育ち特有の諸問題を解決するための取り組みにもなっているのが、この「愛知方式」です。

愛知方式
実親子関係を失わせて養親の実子として育てる特別養子縁組を前提として、新生児(生後4週間に満たない乳児)の里親委託を行うのが愛知方式の本質です。その内容は、実親からの相談を受け、出生までの間に里親を決定し、実親及び里親への複数回の面接と意識確認、および出産する病院や市町村保健センター保健師その他の関係機関との調整を行い、生まれてくる子供にとっては実親に代わる養育環境がそのまま確保されるよう、関係各位が関わります。
 なお、他県においては病気や障害の有無が明らかになる年齢までは乳児院で養育しますが、やがて里親に引き取られる日が来る際、物心のついた子供への、”親に捨てられ、施設にもまた捨てられた”という心理的に極めて重大な影響が懸念されます。愛知方式では、このような多感な時期にある子供への心理的ダメージを回避することが出来ます。
 子供にとっては、里親ではなく生みの親が養育するに越したことはなく、それが大前提です。しかし、レイプ、結婚詐欺、若年層での妊娠など、およそ子育てを前提とした責任ある性行為に基づく妊娠ばかりではありません。
若年層妊娠では特に、無知と好奇心の結果、妊娠に気付かず酒・タバコやドラッグその他、胎児にとって致命的なダメージを及ぼす行為に、親が継続的に及んでいることも通例です。また、実は妊娠による体調不良が、レントゲンによる一般診察により初めて認識されるパターンも多く、放射線によるダメージも含めて、広く胎児にとっては出生後の障がい発生のリスクがつきものです。
ところが、愛知方式においては、出生直後から養親が養育しているため変化に気付き易く、事前に実親とのコミュニケーションも十分に図られています。そして、その上で、今後何が起きても養育を放棄することはないという里親の決意と責任を、子供を引き取る際に要求する結果、後日、子供の障がいが判明しても、養親としては予め起こり得るものとして覚悟の上で引き取り、引き続き自分の子として養育を続けているという事実の存在が、この愛知方式の信頼性を裏付け支えていると言えるでしょう。
そこまでの慎重な実親と養親との十分な交流と里親・里子とのマッチングの結果、愛知県では、この33年間で183組中1組だけが特別養子縁組不成立に近い状況という結果となりました。
このように、子供にとってのベストを志向した特別養子縁組制度の利用ですが、それ以外の方法もないかを検討することも、これからの最重要課題です。

生まれ来る子供の視点に立った性教育の重要性
先にも示した若年層妊娠の例では、中学生、高校生など、実に出産の数日前まで、全く妊娠に気付かず、部活動を行っていた子が居るとのことです。生理が全く来なくなったという事実の意味を、当の女の子は全く知らなかったということです。あるいは、怖くて誰にも相談できぬまま、出産を迎えてしまったということも大いにあり得るでしょう。
家庭内での母親の存在が希薄化すると、このような事態も起こり得るのだなと、私も幼少の娘を持つ母親として、気を引き締めて育児に臨まなければなりません。また、学校での性教育のあり方も考えるべき問題です。

新生児期の特別養子縁組の必要性
今回示してきた新生児里親委託制度や特別養子縁組の適切な利用については、ともすれば、児童施設の負担増ともなり得るという第一印象を持つ方が多いと思います。ところは、実際に愛知県の児童養護員さんにお聞きしたところ、新生児縁組よりも、2歳3歳児縁組の方が、はるかに人員を含めた労力が要求されるとのことです。
その理由は、新生児なら寝ている時に面談すれば済みますが、2歳3歳ともなれば聞き分けもついてきますから、子どもに聞かせたくない話などは1人の児童員さんが子供の面倒を見て遮断し、もう1人が面談するという手間が生じるからです。また、新生児から育てられていないため、ほとんどのお子さんが赤ちゃん返りをして親を試す行動を取りますが、これは養護スタッフにとっては、想像を遥かに超える厳しいものだそうです。

最初の砦=児童相談所
新生児・幼児保護のための行政機関には種々のものがありますが、養育能力に問題のある親が抱える子供を救えるのは、唯一、児童相談所しかありません。この児童相談所がしっかりと機能し対応することが出来れば、救えるはずの命はきっともっと増えるはずです。
そのためには、愛知方式を実践されている児童相談所のように、命と命を繋ぐための最初の砦として、児童相談所が極めて重要な立場を担っていることを再認識することが先決です。そして、施設で育てることを考えるのではなく、生まれたときから親と子の深い絆で結ばれ、愛情を注がれつつ育つ方が子供にとってのベストであり幸せだと考え、愛知方式のように実践していくことです。
子供たちの未来がキラキラと輝く、可能性に満ちたチャンスの場を少しでも増やすには、まず、普通の子供たちと同じ人生のスタートラインを、児童相談所が関わる子供たちにも等しく授けてあげることではないでしょうか。適切な家庭で愛情に満たされ育つことが、子供にとっては生まれながらにして有する、ごくごく普通の望みであるはずです。決して、それが特別なものであってはならないのです。