黒猫は子猫に授乳を済ますとキジ虎とガレージの外へ出てきては砂の上でごろごろと転がり、たまに玄関の中に入ってきては何故かキジ虎のお乳を吸っていた。
キジ虎もそれが当たり前のように、したいようにさせていた。
授乳中の母親の行動にはびっくりだったが『あかちゃんっぽい』黒猫はしっかり母親業務もこなし、キジ虎はそのサポートをしていたように思う。
一生懸命子育てをする母猫は神経質なものだが、ささら達がたまに覗きに行っても威嚇することは無かった。
その上、友達が来ても子育て奮闘中の姿を見せてくれた。
ある時、閉じたシャッターの前で黒猫が大声で鳴いていたことがあった。
おかんが車で出勤した後、いつも少し開けてあるシャッターを完全に下ろして行ってしまい、中の子猫に半日以上接触できなかったことがあった。
慌ててシャッターを開けて飛び込んだものの、箱の中はもぬけの殻だ。
驚いた。
あんな子猫が何処かへ行ってしまうとは考えられない。
黒猫はうろうろと歩き回り大声で鳴くことをやめない。
そのうち、やたら上の方を見上げて鳴くことに気がつき、まさかとは思いながら、弟を呼んでガレージの二階部分に上がって探してもらった。
いた。
二階部分に放置してあった段ボール箱の中に子猫達を移動してあったのだ。
車さえあれば屋根から二階部分に上がることは容易だ。
あんまり頻繁に覗き込むので猫なりに鬱陶しかったのだろう。
きっちり四回上がったり降りたりして運んだのだ。
仕方なくまた弟が下の段ボール箱に下ろすと、黒猫はまっしぐらに飛んでいった。
半日以上振りの再会を果たした子猫にたっぷりと授乳をしてあげたのだろう。
こんな日が暫く続くと思っていた。
そして、時が来れば『猫の掟』に従い、それぞれの世界に出て行くのだろうと思っていた。
その日までずっと猫の家族はここにいるのだと疑いなどしなかった。
でも、別れは突然やってきた。
つづく。
