答えは鍋の中 | 何もない明日

何もない明日

朗読人の独り言

 

 

 

 

その占い師の料金は時間制ではなく、
一問一答。
単価は330円。
高いのか安いのか、いまいち分からないが
老若男女問わず行列が出来るほどの人気がある。
店舗は何故かスーパーマーケットの一角にある。
一見ATMコーナー。
小さなすりガラスの扉の向こう。




今日は鍋に入れる食材を調達しに来た。
白菜、春菊、長ネギ、茸、
しらたきとくずきり、どっちにしようか。
「K」は私の住んでいるこの小さな町に、
一店舗しかない貴重なスーパーマーケットだ。
やっぱりマロニーちゃん、と買い物カゴに放り込み
ふと見るとそこには占い師のガラスの扉。
今日は珍しくその前に誰も並んでいない。
「一問 330円也」
と貼り紙がしてある扉。




その前をただ通り過ぎようとしただけだった。
自動だったとは。
すりガラスが開き、待ちかねたように声がする。
「いらっしゃいませ。」
扉は開いたままだ。
「お待ちしておりました。さあ、中へどうぞ。」
違うんです、と言い掛けたがいや、ちょっと待てよ。
330円か…聞いてみてもいいかな。
一問だけでもいいですか?
「もちろんです、どうぞ。」
足を踏み入れた瞬間、後ろで閉まる扉。




三畳ほどの狭い空間にテーブルと椅子が二脚。
占い師は魔法少女のような格好の中年女性だった。
「さあ、お座りください。」
と言われ椅子に腰を下ろし、
周りを見回してみるが何もない。
「では、質問をどうぞ。」




世界の果てはありますか?




私は事実を知っていて、そう聞いたのだ。
答えは間違っていた。
それで良かった。
占い師に330円を支払って買い物を続けた。
今夜は鍋だ。
世界の果てで。